「聞こえる世界」と「聞こえない世界」を行き来しながら

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挨拶

はじめまして。くらげです。40歳男性の聴覚障害とADHDのある当事者です。この度、このサイトでコラムを書かせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

聴覚障害者としては生まれつき進行性の聴覚障害で最初はある程度は聞こえていたようですが、10歳くらいでほとんど聞こえなくなり、中学2年で地元の山形のろう学校に転校しました。そのあと、筑波大学附属聾学校(当時)の高等部に進学したあと、筑波技術短期大学(当時)に行き2回も留年した後どうにか卒業して就職しました。あわせて10年近くいわゆる「ろうの世界」にいたことになります。

また、23歳で人工内耳の手術を受け、10年ほどかけて電話ができるくらいには聞こえるようになりました。現在ではフリーランスとなりリモートワークが中心ですが、字幕アプリを併用することでなんとかオンライン会議を活用して仕事を続けることができています。テクノロジー・バンザイ!(なぜ一度就職したのにフリーランスになっているかといえばADHDの問題が絡むのですがこの辺りはまた別な機会に書きたいと思います)

人工内耳の手術を受けて

裸耳の聴力は100db を超えていて身体障害者手帳では聴覚障害2級となっています。医学的な区分の上での「ろう」でもあるのですが、そのくらいの重度難聴でも内部に機械を埋め込み訓練することである程度は電話やオンライン会議ができるくらいに聞こえるのはかなり不思議なことです。もちろん、人工内耳というテクノロジーの凄さもあるのですが人間の脳の不思議さも感じます。

一方で、世間的には「裸耳ではほとんど聞こえないけど、補聴機器を使ってある程度は聞こえる人がいる」ということはあまりよくイメージできないようです。聞こえるか聞こえないかの境目には非常に多様なグラデーションがあるのですが、一般的には「聞こえる」か「聞こえないか」というまるでスイッチのオンオフのように考えている方が少なくありません。このような誤解が様々な問題を引き起こしているのはこのサイトをご覧になっている方はかなり身にしみて分かってるのではないかと思います。

これが顕著に現れているのが障害者を規定する法律で、日本では法的な意味での聴覚障害者とは「身体障害者手帳を持つ人」とされていますが、身体障害者手帳を取得するためには60デシベル以上の聴力となることが必須とされています。これは世界的に厳しい基準と言われていますが、逆に言えば、裸耳が60デシベル以上であるなら、補聴器や人工内耳をつけて日常会話が問題なかったり、電話ができたりしても等級が下がるということはありません。また、その逆もしかりで60デシベル未満であるなら聞こえることに関してどれほど問題を抱えていても法的なうえで身体障害者として扱われることがありません。ここでも身体の機能だけでまるでボリュームを絞るような考え方となっています。しかし、もちろん、人間はスイッチのように切り替えたり、「ボリュームを上げたから声を理解できる」というものではありません。この辺りの誤解というか「単純化」については日本における聴覚障害の支援について大きな問題だと考えています。

テクノロジーの進歩は凄まじい

聴覚障害を取り巻くテクノロジーや医療技術の発達は著しく、人工内耳の手術もより安全かつ短期間になり、外部装置の高性能化・小型化が進んでいますし、補聴器の性能もこの10年でかなり変化しています。(一方で全く安くならないのが不思議ですが)

また、この先10年もすればiPS細胞などを用いた内耳再生技術も一般化してくるでしょうから、ますます「聴力だけで聴覚障害を判断する」のはそろそろ限界かと思っているのですが、そうなったときにどのように法整備するのかなどはかなり難しい問題になりそうです。個人的にはいわゆるQOL(Quality of life=生活や人生の質)に応じて障害の扱いが変わっていけばいいと思ってるのですが、どうやってそれを客観的に判断するかなどを考えるとこちらも簡単ではありません。いずれにせよ「聞こえないことの複雑さ」をもっと社会に知ってもらいたいなと思っています。

聞こえる世界と聞こえない世界を

私は人工内耳をつければある程度聞こえてしまいますが、それを外せば何も聞こえない世界にいます。また、聾学校で育ったことでいわゆる「ろうの世界」も体験しましたし、社会人になってからは聞こえる世界をちょうど17年ほど経験しています。ある意味で「聞こえる世界」と「聞こえない世界」を行ったり来たりしていると言える立場なのではないかと自分では思っています。

「聞こえない人」からすれば「聞こえる人」の無理解や偏見に苦しむことが多いのですが、同時に、「聞こえる人」は「聞こえない人」がどのような人たちなのかがあまり分かりません。このディスコミュニケーションをなんとか少しでも埋めることができたらなと思ってX(旧Twitter)などで発信しているのですがなかなか難しい。このコラムでも「聞こえる人と聞こえない人のギャップ」のようなことを取り上げられたらいいなと思います。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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