合理的配慮について
前回の続き、事業所内でどのような合理的配慮が行われているのかのご紹介です。
他の方が普段どのような配慮を受けているか、かなりデリケートな話なので話題にしにくい面があり、「我慢できる範囲だけど、なんだかちょっと困っている」という状態がずっと続いている方もいらっしゃいますよね。
事業所への伝え方と具体的な配慮事例を参考にしていただき、そこから配慮を受ける側の状況と事業所側の状況を踏まえ、より良い配慮を話し合っていただければと思います。
合理的配慮の伝え方
配慮希望を事業所へどう伝えるかは、決まったフォーマットがあるわけではありません。口頭だけですと、トラブルが起こった際に「言った」「聞いてない」とこじれることがあるので、書面に残しておく方が良いと思います。
配慮希望を伝える際、私が特に気をつけている点は2つあります。
1.希望する配慮に理由をつけてを伝える
前回、私は電話業務を一部外してもらっていると書きましたが、外線に出て事業所名やお名前を聞くのが難しいので外してもらっています。どうしてもの場合は出ますが、聞き取れるかドキドキしますし、残念ながら聞こえたお名前が間違っていることもあります。
自分からは電話をかけますし、つないでもらえばかかってきた電話にも出るので、「外線も出れるのでは?」と思われることもありますが、すべての声が聞こえているのではなく、聞き返したり、”多分こういうことだな”と想像しながら電話しているので、なにも情報がない外線の場合は非常に怖いです。
このことを事業所へ伝える際に、「外線は出なくて良いようにしてください」だけ伝えてしまうと、「いやいや、電話できてるじゃない。嫌なだけなんじゃないの?」と思う方もいらっしゃいます。障害については当事者でなければわからないことも多く、理由も併せて伝えることは大事だと思います。
また、例えば事前に登録しておいて、事業所名が電話のディスプレイに出る場合は電話に出れますので、そういった形であれば対応可能など、代替案の話し合いにも理由を伝えておくことは役立ちます。
2.対等な立場で希望を伝える
履歴書などの応募書類作成時に、「配慮は〇〇をして欲しいです」「〇〇をお願いします」という表現ばかりで、自分の文章が妙に謙ったように感じることはないでしょうか。
応募者と採用者の関係ですので、配慮希望を書くことでどう思われるのか、不採用につながるのはないかなど心配する方もいると思いますが、「〇〇して欲しいです」の部分を「〇〇だと効率よくできます」「安全にできます」「安定してできます」などにしてみてください。「幸いです」「助かります」なども良いと思いますが、グッと印象が変わると思います。
もし、「配慮の提供はできない」「障害者手帳を持ってないってことは、配慮しなくても良いんですよね」など言われた場合は、合理的配慮の提供は事業所の義務で、障害者手帳の有無は関係ないということを説明してください。それでも対応してもらえなければ、私だったら応募を見送るかもしれません。無理に就職したとしても自分も疲弊するでしょうし、「合理的配慮を提供しない」と決めた管理者ではなく、一緒に働く社員の方々に負担をかけてしまう状況は辛いと感じるからです。
関西に住んでおり、事業所がたくさんあるのでこういった判断ができるという面もありますが、事業所とは対等な立場であると思って伝えるようにしています。
合理的配慮指針事例集
ここからは、具体的にどのような配慮が各事業所で行われているかご紹介します。
厚生労働省は各事業所でどのような配慮が行われているか、全国の都道府県労働局・ハローワーク、独立行政法人高齢・障害・求職者 雇用支援機構等を通じて、事業主が実際に取り組んでいる事例を収集し、「合理的配慮指針事例集」を作成しています。
この事例集には具体的な配慮事例がまとめられていますが、この他にも、厚生労働省の「公的機関における障害者への合理的配慮事例集【第七版】(地方公共団体等)」や独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者雇用リファレンスサービス」もありますので、よろしければご確認ください。下記の配慮内容は、合理的配慮事例集【第五版】からの抜粋になります。
■募集・採用時の配慮事例
・ 筆談(紙、筆談パッド、ホワイトボードを使用)や、PC 画面上で(または、プロジェ クターで投影して)交互に入力することにより、面接を行った。
・ 補聴器により会話が成立したが、複雑な説明内容に関しては筆談を交え、誤解がないように留意した。
・ 通常行う集団面接は免除し、個別に面接を行った。
・ 内定後の各種説明の際にも、手話通訳者の同席を認めた。
■入社後の配慮事例
○ 担当のあり方の例
・ 業務ごとに担当者を置いている。(各業務の担当者が一目でわかるように一覧表を作成している)
・ 一人の担当者を置き、当該担当者が他者と本人との連絡を仲介する。
・ 業務指導を行う者(先輩社員等)と相談対応を行う者(部長等管理職)を分けている。
・ 当初は担当者を絞り、本人が慣れた頃に他の社員も対応できるよう社内で周知し、 本人からの相談を受けたら担当者に伝達するようにしている。
○ 指導・相談の仕方の例
・ PC、携帯電話の画面やメール、ホワイトボードの活用、筆談、日誌や連絡ノートにより指示や相談対応を行っている。
・ 具体的に見本を見せることで指示をする。
○ 業務指示・連絡に際して活用しているツール等の例
・ 手話による通訳 ・ メール・FAX を送る、メモを手渡す
・ 筆談用のボード、電子パッド
・ 音声を文字化するソフト
・ 音声を通常より拡大できる電話機
・ コミュニケーションカードを作成
・ 作業指示書(内容、場所、目的、スケジュー ルを明記)を作成
・ 実際に見本を見せる
・ ゆっくりと大きな声で話す
・ 複雑な内容の指示については、事前に説明資料を作成し手渡す
○ メイン担当と副担当が簡単な手を習得し、コミュニケーションをスムーズにしている。
○ 社内における情報伝達の配慮の例
・ 会議の際に手話通訳者の同席を認める。
・ 会議の際、口話ができる方であれば、話者の口元がわかる席に配置する。
・ 朝礼時には手話による通訳を行うことや、要約筆記、内容をリアルタイムでPCに入力すること等により、会社の方針等がきちんと伝わるように配慮している。
○ 休暇に関し、通院・体調に配慮している例
・ 通院日には休暇を認めている。
・ 本来は三交代制等のローテーション勤務だが、本人の希望を踏まえ、労働時間、休日を固定している。
・ 手話による通訳を介する等により、日頃の声かけやメールにより体調・様子の変化を 注視し、相談・申出がしやすい環境に配慮している。
この他にも、危険個所への対応や他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明する場合の対応などが掲載されています。
合理的配慮は「一度決まったら変更なし」ではなく、障害の進行や職場環境の変化があった場合などは、繰り返し話し合いが可能です。こういった配慮は障害者手帳の有無に関係なく、聴覚障害のため働く上で制限を受けている方なども対象となりますので、ご自分にどのような配慮があると働きやすくなるか、考えてみてもらえたらと思います。
合理的配慮のやり取りについて感じること
私個人の考えですが、合理的配慮の話し合いは気を遣いますし、すべてが自分の希望通りになるわけでもありません。話し合いの中で嫌な気持ちになることもあるかもしれません。それでも、担当者へ伝えていかないと知ってもらうことができず、困っている現状は変わりません。
私自身、以前は事業所との話し合いを遠慮してしまうこともありましたが、現在、スムーズに配慮を受けられることが増えているのは、どなたかが頑張って声をあげてくれたから……こう思うようになってから、誰に、どのタイミングで、どのような配慮なら調整してもらいやすいかを考えて伝えるようにしています。一気に職場環境は改善しませんが、少しずつでも自分も周囲の方も働きやすい職場になると良いなと思っています。
参考資料
厚生労働省:合理的配慮指針事例集【第五版】
厚生労働省:「公的機関における障害者への合理的配慮事例集【第七版】(地方公共団体等)」
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構:「障害者雇用リファレンスサービス」