2025年6月に手話施策推進法の施行され、同年には東京2025デフリンピックが開催されました。また、「手話のまち」をはじめ、ろう者を主体とした取り組みやイベントも全国各地で行われています。こうした動きを通じて、聴覚障害者や手話について知る機会が広がってきました。
近年では、手話通訳者の配置や音声認識ソフトの導入など、情報保障に配慮した取り組みを行う企業も見られるようになっています。
一方で、企業が初めて聴覚障害のある社員を雇用する場合、「どのように関わればよいのか」「会議や研修はどのように進めればよいのか」と、戸惑いや不安を感じることも少なくありません。
私たちが働くうえでは、こうした不安を解消し、障害の有無にかかわらず、やりがいやモチベーションにつながる職場環境を整えることが重要です。
そのため、聴覚障害者本人だけでなく、共に働く聴者にとっても重要な情報保障として、必要な準備や方法を知り、手話通訳者・要約筆記者を活用しながら、双方が円滑に業務を進められる職場環境を整えていくことが求められます。
ここでは、企業が手話通訳者などの派遣と活用する方法と、利用できる助成金ついて、ご紹介します。
手話通訳・要約筆記等派遣を依頼する方法
企業が手話通訳者や要約筆記者の派遣を依頼する場合、手話通訳・要約筆記派遣事業を行なっている事業所へ問い合わせをします。
依頼の流れ
主な相談・依頼先は以下のとおりです。
- 都道府県の聴覚障害者情報センター
- 都道府県の聴覚障害者協会
- 手話通訳等派遣センター
派遣の依頼や相談をする際は、企業の所在地がある都道府県内の事業所へ問い合わせます。
例えば、会社が新潟県にある場合、新潟県内の事業所に依頼することになります。
依頼の申込み内容
申込みの際に求められる内容は、主に以下の項目です。
- 利用・申込方法
- 会社名
- 連絡先
- 派遣希望日時
- 派遣先
- 通訳内容
- 希望する待ち合わせ場所と時間
必要事項は概ね上記のとおりですが、詳細は事業所によって異なります。事前に確認のうえ、メール・FAX・電話で申込みを行います。
締切日は、希望派遣日の1週間前を目安としている事業所が多いですが、これも事業所によって異なります。余裕をもって早めに相談することが望ましいでしょう。
派遣の可否や派遣人数については、調整後に事業所から連絡があります。
派遣日の2日前になっても連絡がない場合、事業所へ確認の連絡をしましょう。
利用料金
企業が依頼する場合、原則として有料となります。
(※聴覚障害者本人や、聴覚障害者団体が利用する場合は、自治体の制度により無料となるケースがあります。)
東京都の場合(例)
▶︎手話通訳者(1名)
当初2時間まで 13,500円
以降30分ごと 2,500円を加算

▶︎要約筆記者(1名)
当初2時間まで 12,500円
以降30分ごと 2,500円を加算

静岡県の場合(例)
▶︎手話通訳者(1名)
1時間 3,180円 + 交通費
▶︎要約筆記者(1名)
1時間 2,080円 + 交通費
パソコン使用料として1人300円
このように派遣料金は都道府県や市町村によって異なります。
交通費が別途請求される場合もあれば、料金に含まれている場合もあります。
また、キャンセル料が発生する場合もあり、「派遣日の2日前の指定時間までに連絡がない場合」にキャンセル料が発生します。詳細は必ず事前に確認してください。
なお、所在地以外の都道府県で手話通訳・要約筆記者の派遣が必要な場合は、まず自社所在地のある事業所に相談すると、調整方法を案内してもらえることがあります。
「障害者雇用給付金関係助成金」とは?
障害者を雇用する事業主が、職場定着の目的として、「業務を円滑化」「職場環境の改善」「スキルアップ」等、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理を行うために必要な支援に対して支給される助成金制度です。
制度の詳細は、以下の資料をにご確認ください。
聴覚障害者に関する助成金としては、「手話通訳・要約筆記等担当者助成金」が該当します。
手話通訳・要約筆記等担当者に係る助成金の種類
手話通訳・要約筆記等担当者の配置又は委嘱助成金
聴覚障害者の雇用管理のために必要な手話通訳・要約筆記等担当者の配置または委嘱する場合の助成金
配置又は委嘱の継続措置に係る助成金
上記①の支給期間が終了する事業主が、引き続き配置または委嘱の措置を継続して実施する場合(最長5年)
配置又は委嘱の中高年齢等措置に係る助成金
聴覚障害者の加齢等により、障害に起因する就労上の困難性が増した場合に、上記①の措置を実施する場合
用語の整理
- 配置:社内で働く人(自社の社員や職場に常にいる人)を通訳等の担当者として配置する。
- 委嘱:必要なときだけ、外部の手話通訳者・要約筆記者に依頼し、派遣してもらう。
※「配置」「委嘱」は、いずれも助成金制度上で用いられている区分です。
対象となる聴覚障害者
身体障害者手帳の等級が2級、3級、4級または6級の聴覚障害者
※在宅勤務の方も対象
※等級が2級の方に限り、特定短時間労働者も助成対象になります。
雇用されてから1年以内の聴覚障害者
ただし、雇用後1年以上経過していても、以下の理由であれば対象となることもあります。
※途中で聞こえなくなる等による職場定着のための支援が新たに必要となった場合(身体障害者手帳、または医師診断書・意見書が必要)
※人事異動等があった場合(異動後1年以内)
支給要件
- 聴覚障害者の雇用継続を目的として、業務の円滑化のために、情報保障として手話通訳・要約筆記者を活用するする(リモート等、ICTを活用した支援も含まれる)
- 聴覚障害者のスキルアップを目的とした研修等
- 職場環境の改善、聴覚障害に関する理解促進等を目的とした研修の実施
手話通訳・要約筆記等担当者の要件
- 手話通訳に関する知識・能力・経験を有する者(養成講座修了者、手話通訳者等)
- 要約筆記に関する知識・能力・経験を有する者(試験等合格者、登録者等)
- 盲ろう者通訳・介助に関する知識・能力・経験を有する者(養成講座修了・登録者等)
手話通訳・要約筆記等担当者の業務
聴覚障害者が主体的に業務を遂行できるよう、以下のいずれかの業務を行います。
- 業務上で必要となる手話通訳・要約筆記等
- スキルアップを目的とした研修等に必要な手話通訳・要約筆記等
- 職場で働く聴者に対する理解促進や手話研修
支給額について
「手話通訳・要約筆記等担当者の配置又は委嘱助成金」の場合
助成率:費用の4分の3
支給限度額
▶︎配置:1人当たり1ヶ月につき15万まで
▶︎委嘱:1回(※1)につき1万円、年150万円(※2)まで
(※1)「委嘱1回」とは、手話通訳者や要約筆記者1人につき、同じ日に行った業務支援は、午前・午後等、複数回分かれていても、まとめて1回と数えるということです。
例えば、手話通訳者1人が同じ日に、午前と午後に分けて会議の通訳を行っても、その日は「委嘱1回」として扱います。
(※2)手話通訳者や要約筆記者を初めて委嘱した日から1年間を1つの区切りとし、その期間に支払える金額の上限が150万円までという意味です。
1年間の合計が150万円を超えた場合でも、支給の対象となるのは150万円までとなります。
支給期間
最長10年間
受給の手続き方法
受給資格認定申請の期限:委嘱する日の前日までです。
支給請求の期限:対象となる6ヶ月期間の終了後、翌月末までです。
提出書類は、「支給要件確認申立書」、各種申請書類、身体障害者手帳、医師診断書・意見書、委嘱に関する書類等があります。
書き方や書類データのHP▶︎▶︎障害者介助等助成金のごあんない
助成金活用例
支給対象となる企業が、手話通訳・要約筆記派遣事業のある事業所、例えば、聴覚障害者情報センターと委嘱契約を結び、その費用について助成を受けるケースがあります。
活用例としては、就職面接や面談、会議、研修、朝礼等、業務上実用な情報保障が挙げられます。
参考事例
事例4「聴覚障害者のリモート研修を支える要約筆記担当者の委嘱」
※最後にあります。
事例3 「コミュニケーションを支援するための手話通訳者の委嘱」
※3番目にあります
まとめ
手話通訳・要約筆記等を配置・委嘱(派遣)することは、単なる配慮ではなく、聴覚障害者が安定して働き続けるための職場環境づくりそのものです。
業務上の情報保障が整うことで、
- 聴者と円滑に協働でき、業務の効率化・生産性向上につながる
- 聴覚障害に対する理解が進み、思い込みやコミュニケーションの齟齬を防ぐ
といった効果が期待できます。
一方で、事業主が依頼する場合は有料となり、費用面で導入をためらうケースも少なくありません。
しかし、「障害者介助等助成金」を活用すれば、
- 企業は、費用負担を抑えながら、職場改善や業務の質の向上改善を図ることができる
- 聴覚障害者は、安心して働き、スキルを発揮・向上させる環境を得ることができる
ただ、こうした助成金制度があること自体、まだ十分に知られていないのが現状です。
手話通訳・要約筆記等の活用は、職場の活性化と力を発揮できる環境づくりへの第一歩となります。
ぜひ、制度の活用を検討してみてください。

