皆さん、こんにちは!
聴覚障害者がいる場では様々なコミュニケーション手段で色々な工夫がされています。
しかし、聴覚障害者と初めてお会いした、職場で一緒になった、お店にお客さまとして来た、などのきっかけで接することがあると思います。そんな時、聴覚障害者への接しかたが分からない、相手を想ってやりたいけど自分の言動が失礼にならないか躊躇してしまうという聞こえる方がいらっしゃるでしょう。
今回のテーマは聴覚障害者への配慮についてです。
そして、キコニワは聴覚障害当事者が多くご覧になってると思います。自分の障害を説明する上で必要な知識でもあります。
相互理解するために様々な方法があることを知って、参考にしていただけたら嬉しいです!
※ここでは聴力に関係なく、聞こえない全ての人に提供できるように、きこえに障害があるとして「聴覚障害者」と明記しております。ご了承ください。
多様な聴覚障害者
身体障害者手帳を所持している聴覚障害者は全国で約34万人います。
しかし、聴覚障害程度等級表(※1)に該当しない、聞こえにくい方も多くいます。
「耳が聞こえない」というのは共通していますが、以下のようなことから実に多様なのです。
- いつから聞こえなくなったか
- 聞こえのレベル
- 音声言語獲得時期、成育や教育環境
- 障害の受容
- コミュニケーション手段
①いつ聞こえなくなったか
生まれつきの人もいれば、途中から失聴など。
症状の原因は高熱で聞こえなくなったり、原因不明で聞こえなくなったりなど様々。
②聞こえのレベル
聞こえづらいという人から全く聞こえないなど、個人によって聞こえが異なる。
③音声言語獲得時期、成育や教育環境
音声言語獲得する前に失聴、音声言語獲得してから失聴など。
教育環境についてはろう学校、もしくは地域の学校、成育環境では親や家族が聞こえる、もしくは聞こえないなどから考え方の影響によって人それぞれ違う。
④障害の受容
聞こえない自分を肯定的に捉えている人もいれば、そうでない人もいます。
⑤コミュニケーション手段
手話、筆談、読唇(※2)、残存聴力活用(補聴器など装用)など。
※1 以下の記事にあります。
※2 話し手の唇の動きや形、表情などから話の内容を推定しながら読み取ること
「ろう者」「難聴者」「中途失聴者」
「ろう者」とは日本手話という、日本語とは異なる独自の文法を話す言語的少数者である。(「ろう文化宣言」(木村/市田.1995))
聴力に関係なく、聴覚障害を肯定的に捉え、聞こえないことが当たり前、第一言語は手話であると考えを持つ人は自分のことをろう者と言ってます。
「難聴者」とは生まれつき聞こえないけど、補聴器を装用することで少し聞こえるなど人によって様々ですが、音声言語も使える方が多くいます。
しかし、残存聴力活用できて話せても自分のことを「ろう者」と言う人もいます。逆に全く聞こえないけど、「難聴者」と言う人もいます。
このように前述の①〜⑤から様々な背景や考え方があるため、これといった定義付けは難しいです。
「中途失聴者」は音声言語を獲得した後に失聴した人のことです。なので、発声などは問題がないのですが、聞こえのレベルは人によって違いはありますが、聞き取りにくい、聞き間違いもよくあります。
私は生まれつき耳が聞こえないのですが、自分のことを「ろう者」と言ってます。
医学的には感音性難聴、デシベルで言うと両耳110dbくらい、補聴器をつけても音は入ってきますが、どんな音(声)なのか分かりません。なので現在、補聴器を装用していません。
家族は私以外、耳が聞こえます。幼少の時にろう学校で口話教育(※3)を受け、幼稚園から地域の学校に通い、特別支援クラスで国語など基本の教科を学び、体育や理科などは聞こえる人がいるクラスで学びました。手話と出会うまでは全て読唇でした。大学に入り、手話と出会い、自分が自分らしく、自由に話せる言語は手話だと知り、それからずっと手話です。手話ができない人には筆談や身振りを使います。
※3 読唇と自分が発声する訓練をする教育
聴覚障害者に対するコミュニケーション
「ろう者」「難聴者」「中途失聴者」「身体障害者手帳を持たない聞こえにくい、片耳のみ聞こえない者」それぞれ人によって異なりますが、共通することは「耳が聞こえない」ことです。聞こえのレベル、背景や環境などからその人に合った配慮を考えていきましょう。
伝達や確認方法を聴覚障害者と相談
私のような、生まれつき耳が聞こえない人は乳幼児の時から音声での会話や周囲の話し声など自然に獲得できないため、3歳から口話教育という発声の訓練を行い、視覚的に言葉を獲得してきた人がほとんどです。このような背景から口の形を読み取りながら、話の流れを察して理解をしています。しかし、口を大きく開ければいいというわけではなく、口の動きや形は人それぞれなので、読み取りやすい、読み取りにくいといったこともあります。
また、手話を第一言語とする人は日本語が第二言語ですので、手話のほうが1番ベストな方法なのですが、そうでない方は筆談や音声認識アプリなど視覚化できるものを使用して、分かりやすく伝えると良いでしょう。
話の内容が曖昧で何を言いたいのか分からなかったり、お願いするときに遠回しな言い方、例えば資料作成をお願いするとき、「急ぎませんので、作成お願いします」だったりすると「急がないって今週中に出せば良いのか?それか今は急がないけど、午後から必要になるのか?」などなど、不安になってしまうこともあります。
本来なら、その場で聞き返せば良いのですが、聞きながら、資料内容の確認をする同時作業はできないので、話し手が終わった後に確認、質問するタイミングを逃してしまったり、相手が忙しそうだったりなど呼び止めるタイミングも分からなかったりするのです。
そのような場合は「資料作成は明後日までですので、自分で調整をお願いします」「分からなかったら、チャットしてください」など、時間や数字を明確化し、次へのアクションがしやすいように具体的にはっきりと工夫して伝えましょう。
人によっては異なりますので、まずは本人に伝達や確認方法について相談をしましょう。
読唇だけでは限界、音声認識アプリなどの活用で視覚化
中途失聴者と言えば、話題になったドラマ「silent」に出ている主人公も中途失聴者ですね。失聴時期によって違いはありますが、彼のような失聴後、手話を使う人は少ないです。ほとんどの人が失聴しても、変わらず発話するのが多いでしょう。
生まれつき聞こえない人の精神面と比べて、途中から聞こえなくなった方には想像を絶するくらい大変、今まで聞こえていたのに、突然聞こえなくなったことはすごく辛いことです。さらに音声では聴者と変わらない話し方をするので、相手が無意識に聞こえてると思い、早口や複数人で音声主体となって進めてしまうケースがあります。
難聴者も同様で、読唇でコミュニケーションを取る方も多くいます。
中途失聴者は途中から聞こえなくなったので、読唇がすぐにできるわけではないのです。
読唇は訓練がないとできないことであり、周囲が想像する以上に多大な労力が必要になります。これは口話教育を受けた人にも同じことが言えます。
例えば、情報が100%ありますと、40〜50%が読唇、残りの50〜60%は文脈から推定して理解するため、齟齬が生じてしまう場合もあります。
なぜ大変なのか、どうして齟齬が出てしまうのでしょうか。
耳ではなく、目で情報を得ていますので、口の動きが似ている言葉、例えば
「たまご」と「たばこ」
「公園」と「講演」
鏡を見ながら、または友達などに声を出さずに口だけを動かしてみてください。いかがですか?似ていますよね。
話の流れで区別するのですが、話が長いと相当な集中力が要ります。
他に、分かりやすいように単語ごと区切りをつけて話してしまうと、何を言いたいのか分からなくなります。一通りの説明を終えてから、理解できたかどうか確認をしながら進めると良いです!
しかし、読唇だけだと限界はありますので、心理的に安心して参加できるように、筆談や音声認識アプリを活用するなどの工夫をしましょう。
他にも、会議や複数人でのやりとり、音声主体の場面では事前に資料をお渡しすると共に音声認識アプリの活用、話し手が発話する前に手を挙げてから話し始めるというルールを決めておくなど、できることはたくさんありますので、公正に参加できる方法を一緒に考えていくことも大切です。そうすることで、聞こえない人だけではなく、聞こえる人もやりやすくなりますよ。
片耳が聞こえにくい、聞こえないという人はもうひとつの耳のところなど聞こえやすいところはどこなのか確認をしたり、以上のように情報を視覚化したりすると良いでしょう。
環境によっては聞こえない子どもたちにも影響がある
自分の聴覚障害に対して、マイナスに捉えている方は教育や成育環境(地域の学校や聞こえる家族)からの影響で精神面にも関係することもあります。必ずしもそうだとは限りませんが、あくまでも参考までに知っていただければ幸いです。
例えば、情報を充分に視覚化できていないので、グループでの行動が苦手、自分の意見を言い出せないなどがあり、本人は無意識に性格の問題だと思ってしまうこともあります。
職場だけではなく、地域の学校に通う聞こえない子どもも同じことが言えます。
地域の学校でも、外見では聞こえる子どもと変わらないので、支援が遅れがちというところがあります。本人も無意識に周囲の聞こえる子どもと紛れこんで、知るべき情報が見えてないのかもしれません。
情報格差によって、就職など社会に参加したとき、思考力が低く、意見が言い出せない、思うことがあってもどう話せばいいのか、話すタイミングが分からないなど、様々な場面で本人が苦しむことになります。
周囲の人が気づき、本人、もしくは本人の気持ちを考慮して相談できる人がいれば相談してください。
コミュニケーションボードの活用
お店など接客の場面ではコミュニケーションボードがあって、それを活用しているお店もあります。
コンビニのローソンやファミリーマートのレジに貼られているコミュニケーションボードがありますが、見たことありますか?
指をさして、伝える方法です。それを参考に職場でも学校でも取り入れたら良いですね。
他には身振り、レジ袋などの実物を見せることもあります。
コロナ禍によりレジの方はほぼマスクしていますよね。話しているのかどうか判断が難しいです。聞こえる人も経験あるかと思いますが、マスクによって声が吃って聞きづらかったり、話しているのを気づかなかったりします。
私の経験なのですが、レジで最初は笑顔で接していたのに、途中から表情が険しくなって、最後まで目も合わさなくなることがありました。私の憶測ですが、何か質問とかで話したけれど無視されたと思い込み、失礼な客だと思ったのではないのでしょうか。
その経験から、レジでは少し緊張しますし、喋ってないかずっと相手の顔を最後まで見ています。雰囲気的に察して、手招きや手話、もしくは聞こえないという身振りをしますが、時には相手が筆談で「何も言ってません」と言われることもありました。
飲食店での嬉しい事例もご紹介します。この飲食店は食べ方などで事前に説明が必要でいつも口頭で伝えていたようですが、ある日聴覚障害者が来客し、説明がうまく伝えられず、手話もできない、美味しく食べてくれたかどうかも聞けない、分からないまま悶々としていたようです。
対応方法について、自ら調べ、当事者団体に直接問い合わせをし、視覚化すると良いとアドバイスをいただき、イラストや文を入れて分かりやすいように自分で作ったようです。結果的に、聞こえるお客さんからイラストが可愛いと喜ばれているようです。
このように自分ができることはないかを考え、取り組むことで聴覚障害者も聞こえる人もお店にも良い影響をもたらしてます。
ぜひ、スーパーやショッピング店、飲食店にもコミュニケーションボードや独自のボードを導入するなどの工夫をしていただけると嬉しいなと思ってます。
弊社でもお店の特性に合わせてコミュニケーションボードも作っていますので、ぜひ活用してみてください。
聴覚障害者に対する呼び方
聞こえる人は聞こえる人を呼ぶとき、どのような方法で呼んでいるのでしょうか?
声で呼ぶ、それは自然な行為ですよね。
それと同じように聞こえない人は聞こえない人を呼ぶとき、肩を軽くたたく(2回)、手招きをします。またはテーブルをたたくなど振動で呼びます。聞こえない人の隣にいる第三者が気づいたら、「呼んで」とお願いすることもあります。
私の場合は、以上の他に電気をオンオフ、紙を丸めてその人に向かって投げることもあります。もちろん親しい人限定ですよ。
肩をたたくことは「あなた」を呼んでいるというメッセージですので、聞こえない人にとっては自然なことです。
聞こえる人からしてみれば、人の体(肩)にさわるという行為は抵抗があると思います。それを聞こえない人に正直に話すのも良いですし、お互いを知るきっかけにもなります!
手招きの場合は少し離れていたり、自分の前にいるけど届かないなどの場合に活用すると良いです。
ただ、聞こえない人全てがそうとは限らないので、どんな呼び方がいいのか聞いてください。相手が肩をたたくのは問題ないというのであれば、そのように従いましょう。
私が考えるアウトな呼び方は人差し指でチョンチョンみたいに肩をたたく、なでるように肩をたたく、強く叩く、顔の前で手を振ることです。びっくりしますし、気持ち的にも萎えてしまいます。
呼んだ後も大切なポイントがあります。呼んですぐ話すのではなく、アイコンタクトしてから話しましょう。読唇をする人は話し手の口を読み取りますので、できるだけ目は顔を見ましょう。
聞こえる人はじっと見られていて恥ずかしい、抵抗があると思います。しかし、読唇する人は相手の目を見ているように見えていますが、実際は口を見ています。口を見ないとコミュニケーションができませんので、そこは理解してくださると嬉しいです!
まとめ
聴覚障害者は実に多様であることを知っていただけましたか?
聞こえる人もみんな、価値観、外見や性格など似ているところもあるけれど、全く同じではない、一人一人違いますよね。同じように耳がきこえない人も失聴時期、環境も価値観もみんな多種多様です。
聞こえる聞こえない関係なしに、あなたが感じたことや心配なことを言葉にして、お互いを知り、お互いに歩み寄ってみませんか?