手話が主役の祭典!手話のまち 東京国際ろう芸術祭に行ってみた。【2025.11.6-9】

手話が集まる芸術祭、『手話のまち 東京国際ろう芸術祭』を知っていますか?
手話による演劇、映画、映像、舞台パフォーマンス、出展、そしてお客さんやスタッフまでもが手話で話す場──。

手話のまち 東京国際ろう芸術祭に行ってみた

今年11月に高円寺で開催された「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」!
「ろう文化」や「ろう芸術」に直接触れることができる機会でもあるので兼ねてから楽しみにしていました。

前身である『東京国際ろう映画祭』の映画祭イベントから更にパワーアップし、『手話のまち 東京国際ろう芸術祭』という芸術祭のイベントになっていったのでどんな芸術との出会いが待っているんだろう、とワクワクしていました。
今回は映画だけでなく演劇やパフォーマンスなど多様な表現を通じてろう文化の魅力を発信する総合芸術祭へと発展!

『ろう者が主体』となることは大きな注目を集めやすい。それが社会にもどんな影響をもたらすのか。

こうした試みは、ろう文化の発展において先進的な取り組みを行うフランスにも通じるものがあります。
フランスでは2003年より「クランドゥイユ(Clin d’Oeil)」という、ろう者の表現者やパフォーマー、そしてあらゆる属性を持つ観客が世界中から集まるフェスティバルが実施されています。世界で最も成功しているろう者の芸術祭の一つとして知られています!

さらに、2025年11月には、日本で初めてのデフリンピックが東京で開催されていました。そのため、ろう文化の理解や発展がさらに盛り上がる月でもありました。
手話のドラマや映画作品、デフリンピックなどのおかげで手話の認知度とろう文化への理解は進んできてはいるのですが、文化、社会的参加の壁はまだまだ残っています。

ろう芸術を“鑑賞する側”として、そして日頃アクセシビリティや字幕文化に関心を持っている一人としても、いろいろ感じることの多い体験でした。
どこを見ても、手話を使う多様な人たちばかり(子供から高齢者、そして海外の方まで集まっていました…!)
そのような人たちが楽しそうに会話を交わしている風景に溢れていてワクワクしていました。

この記事では、芸術祭の概要と、実際に観た作品の感想、情報保障について思ったことなどをまとめてみます~!

イベントの概要

手話のまち 東京国際ろう芸術祭(TIDAF)は、日本のろう者が中心となった芸術祭です。
以前は東京国際ろう映画祭として、2年ごとに渋谷で開催し、国内外の監督や俳優を招待してきました。今年2025年11月、東京国際ろう映画祭の拠点を高円寺に移し、「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」として新たにスタートします。開催日は東京デフリンピックウィークの1週間前となる2025年11月6日(木)から11月9日(日)の4日間です。

本芸術祭では、国内外の舞台や映画を中心に、ろう/難聴や手話に関連する作品を上映・上演します。視覚で世界を捉える人々の視点から生まれる最先端の表現の場を共有することで、より豊かな社会とろう芸術の発展に寄与します。またマルシェやフリンジなどひらかれた場を創出することによって、地域の人々との出会い、聴者とろう者・難聴者の相互交流の場を提供します。

この芸術祭を仕掛けているのは、ろう者の映画作家・演出家である牧原依里(まきはらえり)さん。
世界15カ国以上の国と連携し、映画・演劇・展示などの企画から全48プログラムを展開!
国境・言語・文化の違いを越えて、ろう者による表現、ろう文化に根ざした芸術を集め、ろう者・聴者の隔てなく触れられる場をつくっています。日本唯一の国際ろう舞台芸術祭として多様な作品の魅力が発信されていました。
日本国内だけでなく海外のろう芸術作品も紹介されており、「ろう芸術」という言葉が持つ幅広さを実感できる構成でした。

上演作品・企画の感想

舞台作品について

・南村千里『マーク・オブ・ウーマン』
・Teater5005『オン・ザ・エッジ』
・井崎 哲也・那須 英彰・手話のまち連・ 日本ろう者太鼓同好会 他『オープニングセレモニー』
・ダグラス・リドロフ / 板橋 弥央 他『SIGN SLAM』
・那須 映里 / オリヴィエ・カルカダ / エディ『クロージングセレモニー』

今回はこれらの舞台作品を鑑賞しましたが、舞台作品は音声言語や音楽中心の演劇とは異なり、
手話そのものが主役として立ち上がってくる感覚を強く感じました。



その中でも一番印象に残ったのは、Teater5005『オン・ザ・エッジ』

出演:オリヴィエ・カルカダ / ボー・ホーデル
演出 / 声出演:オーレリアン・マン
ドラマトゥルギー / 映像:オードリー ・サングラ
照明デザイン:ポール・ステルケマン
美術 / 衣装:ラース・オッターステッツ
60分 | アジアプレミア
制作国:デンマーク
上演言語 :国際手話・音声英語
字幕:日本語・英語
年齢推奨:12歳以上

主人公のニールスは観客が入り始めるその時点で最初から既に「現実での舞台」にいる。
掃除しながらもこちらの観客側に自然と手話で語り掛ける。
『注意事項があるよ。ここは飲食禁止。トイレはあっち。』
声掛けられた観客は”もう始まってたの?”と戸惑いながらも観客と舞台を席に座ったまま二度見、三度見。
そして演劇の物語が始まる…という風にこちら側とあちら側の演出がとても面白く見えました。

精神疾患に関する薬の名前、劇場で働いているという設定の主人公ニールス。記憶の底に沈めていた過去。謎の一人の男。それらと邂逅し、自分の中の記憶と精神世界を描き出してはゆっくり揺れていく…。
身体表現はもちろんのこと、2人の手が表現される空間の使い方が秀逸でした。

「音がないから代替として手話がある」のではなく、最初から手話で演ることを前提に組み立てられた舞台であることが、観ていてはっきり伝わってきました。

もちろん他の舞台作品も同様で、手話による舞台演出、そして観客の目を意識した手話表現など目を見張るものが多くありました!

・『オープニングセレモニー』では阿波踊り、そして太鼓での演出表現が盛り込まれていました。空気が震える振動や演出の熱をしっかり感じ取れてとても楽しかったです。

・『クロージングセレモニー』では3人の国の違う表現者によるVisual Vernacular(ビジュアル・ヴァーナキュラー、略称:VV)のコラボレーション、手話の文法にとらわれず、身体全体を使って視覚的・詩的に物語や感情を表現するパフォーマンス芸術が感じ取れてとても興味深く見れました。日本でも表現者の米内山明宏さんが築いてきた「手話ポエム」の文化など、昔から手話表現が数多くあったので、年齢関係なく幅広く親しまれやすいとも感じました。

映画作品について

・黄修平『私たちの話し方』
・河合健『みんな、おしゃべり!』
・ダグラス・リドロフ / 今井 ミカ / ジュリアン・ブールジュ『アイドル・ハンズ -忘れ去られた手- / 祈り / 声なき者たち』
(ダグラス・リドロフ氏:マーベル映画「エターナルズ」など世界的な映像作品で手話監修を務めた専門家 )
・エドワード・ラブレース『ぼくの名前はラワン』
・井戸上勝利『ふたり綾』
・アリソン・オダニエル『チューバ泥棒』
・パーニレ・ヴォークト / 佐野 和海 / クリストフ・コーパル / ユミ・リー / ジュリアーノ・ロベルト / トマシュ・グラボフスキ / MJ キエゴ『ああ、痛い / 五十指。 / アンディ、やっちゃうぜ! / アイデンティティの儀式 / 静寂と私の旅 / ミント / 手話通訳』
・オードリー・サングラ / ハン・ソリ / レア・ダミアン『別れの光 / アイム・ソリ―、わたしはソリ / 13号室』
 などなど…。


その中で印象に残ったのは以下の2作品。
・黄修平『私たちの話し方』→人工内耳とろう者と難聴者のそれぞれの立場の邂逅の話
・エドワード・ラブレース『ぼくの名前はラワン』→イギリスのクルド人移民ろう者の話


この2つの作品は今の障害者観点や、手話の立場などしっかりと描かれているように思えました。
海外のろう映画やカメラワークや編集によって手話のリズムや間がより強調されていたのが印象的でした。
また、それに合わせて字幕もきちんと日本語字幕があることは「情報保障」が当たり前にあるということが嬉しかったです。字幕があるかどうかを気にしながら観なければいけないなんてことはなく、フラットに楽しむことができました。

作品もろう者や手話が「福祉の対象」ではなく、「言語」として扱われており、ろう映画の新しい波を感じた点が多かったのも、とても興味深かったです。

手話マルシェ・関連企画

芸術祭期間中には、手話をテーマにしたマルシェ「手話の市」も開催。会場前広場には、食べ物や雑貨・アクセサリーなど多彩な出店が並び、手話・筆談・ジェスチャーを交えながら誰もが気軽に買い物を楽しめる、にぎわいの場になっていました。
ろう者の作家やクリエイターによる作品やグッズが並び、舞台や映画とはまた違った形で、ろう文化に触れられる空間になっていました!

観るだけでなく、直接やりとりができる場があるのも、この芸術祭の大きな魅力だと感じました。

・阿波踊り公演プログラム
手話のまちのために結成した阿波踊り「手話のまち連」。初心者から経験者まで、ろう者・難聴者・手話話者などの人が集まり、多様な表現を取り入れたユニークな阿波踊りが披露されていました。
・手話のまち 蔵
クラビノミタイ×手話のまちのコラボイベント。オリジナルコラボビールの販売とあわせて、東京国際ろう芸術祭のサテライト企画として、手話やろう者の文化をテーマにした多彩な映画を上映。
・イマーシブシアター「交差」
日本手話、日本語、国際手話など、それぞれの言語を用いて登場人物たちとの会話を交わし、観客が物語の中に入り込み、俳優と同じ空間で体験を視覚言語で共有する演劇形式。
・ワークショップ
ミラ・ツッカーマン『ミラ・ツッカーマン:劇場を築く』(トーク)
手話のまち クリエイションチーム『手話のまち イマジナリー 解説』(ギャラリー)
ダグラス・リドロフ ・石村 真由美 ・今井 ミカ・江副 悟史 ・早瀬 憲太郎『手話監修とDASLの現場から』(パネルディスカッション)
砂田アトム・忍足亜希子・今井彰人・長井恵里『日本のろう者俳優の現在地と未来』(パネルディスカッション)
Teater5005『Teater5005:手話と共に創る舞台芸術』(トーク)
エディ『VVWS 』(ワークショップ)
ダグラス・リドロフ『視覚的手話表現 ワークショップ』(ワークショップ)
ダグラス・リドロフ『JSL SLAM 運営ワークショップ』(ワークショップ)
などなど…。

情報保障について感じたこと

情報保障については、全体として「ろう者が主役の場」であることが軸に置かれている印象でした。
字幕、手話、会場案内など、それぞれの場面で工夫が見られました。

・英語字幕、日本語字幕の情報保障
・国際手話通訳者、日本手話通訳者の配置
・手話ができるスタッフ(ろう者、聴者)配置

ただ、一方で、一部スタッフやボランティアの方の「音声による案内」が飛び交う場面にも遭遇しました。
手話で案内をしているスタッフもいたものの、人の列が多く現地での情報が入り乱れていたためか混乱もあり声で案内が飛び交っていた場面もありました。
「せめて紙に書いて案内してほしい」という意見もいくつかありました。
誰のための祭典であるのか、また情報の共有や情報保障の仕方など、それぞれの前提が異なるので課題も多くあるとは感じました。

手話のまちに来ていた聴者の友人に感想を聞いてみると、
『こんなにも手話で話す人がたくさんいるのかと驚いた』
『私(聴者で非手話者)の存在が少数派みたいだった』
『この空間ではマジョリティが手話者で、非手話者がマイノリティーのような感覚を感じた。』
『このような居心地の悪さを、普段から、ろう者や手話者は感じているんだろうな』と思えたとも話がありました。

「誰のための情報保障か」「一般のイベントが”誰”を基準に設計されているのか」を再認識するきっかけにもなりました。

フランスのろう芸術祭「クランドゥイユ(Clin d’Oeil)」について

2年に1度、フランスで開催されている世界最大級のろう文化・ろう芸術の祭典
「クランドゥイユ(Clin d’Oeil)」2003年から開始されてからずっと現在に至るまで開催が継続されています。

クランドゥイユは、世界中のろう者が集い、手話を共通言語として交流するイベントで、
芸術、パフォーマンス、交流性が強いのが特徴。規模も比較にならないほど大きいそうです。

「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」も、「ろう者が中心となって空間と言語が設計されている」という点で、「クランドゥイユ」と通じるものを感じました。

一方で、「日本」の場における情報保障の考え方や、障害者と福祉の考え方、劇場文化との結びつき方など、海外とはまた違った独自の観点なども今回の開催を機に、課題も比較することで可視化されて見えてきているようにも思えました。

自分も来年の7月は「クランドゥイユ」のためにフランスへ行くつもりでいるので、とても楽しみです!

まとめ

「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」は、「ろう芸術」とは何かと“説明されるもの”としてではなく、その場での体験として受け取れる想像の場でした。

ろう者や手話者にとっては自分が分かる「言語が表現される世界」、そして
非手話者や聴者にとっては「表現の前提が違う世界」に触れる貴重な機会だったと思います。

劇場の前も、ロビーも、観客席も、マルシェも。
子どもから高齢者、海外から来た人たちまで、みんなが手話で会話している。
ここでは手話が“主役”。
そんな不思議で、でもとても自然な空間が「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」でした。

数年後。この祭典がどんな形で広がっていくのか、
またどんな作品に出会えるのか、楽しみですね…!



ーーー

手話のまち 東京国際ろう芸術祭

開催期間:2025年11月6日(木)〜11月9日(日)

会場:座・高円寺(東京都杉並区高円寺北2丁目1-2)

WEBサイト:https://shuwanomachi.jp/ 

主催:一般社団法人日本ろう芸術協会 / 文化庁

提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺

共催:杉並区/杉並区聴覚障害者協会/社会福祉法人 トット基金

NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク/一般社団法人 異言語Lab.

後援:一般財団法人全日本ろうあ連盟 / 公益社団法人東京聴覚障害者総合支援機構東京都聴覚障害者連盟 / 東京⼤学 先端科学技術研究センター当事者研究分野

協力:NPO法人 東京高円寺阿波おどり振興協会 / 静岡×カンヌ×映画プロジェクト実行委員会

助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】/ 文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」

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この記事を書いた人

あしゅらんのアバター あしゅらん ライター/クリエイター

<あしゅらん / Asyuran >
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アウトドア話題やインドア話題をゆるく発信。
趣味で世界周ったり映像作ったり漫画描いたりするただの会社員です。
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【近況】今年Perfumeがコールドスリープするので自分もコールドスリープしたくなりました。

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