ろう・難聴版 職業ガイドブック020 会社員_技術営業支援


キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑

あなたの目指す働き方のヒントに。

さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。

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目次

会社員_技術営業支援

寺澤純一(てらさわ・じゅんいち)さん

  ‐ 長野県出身

 

きこえについて

生まれつき耳が聞こえない。
幼稚部時代は地域の保育園とろう学校の幼稚部の双方に通う。
小・中・高校はろう学校で過ごし、筑波技術大学(日本唯一の視覚・聴覚障害者を対象とした国立大学)へ進学。
普段のコミュニケーションは手話。

基本情報

会社員(技術営業支援)

(業務内容)
自動車部品メーカーの株式会社デンソーにて、開発中の新製品や新技術をリアルな3D映像(CG動画)にする動画制作を行う。
自動車関連企業(お客様)に向けて自社製品の魅力を最大限にアピールし、技術開発設計者のモノづくりとビジネスを支える役割を果たしている。

寺澤

お客様が求める条件や数値をクリアしているか確認・比較し、「これなら導入したい」と納得・購入していただける結果を出すことが私の役目です!

1日の流れ

  

会社員として動画制作者になるには

一般的なケース

レンダリング動画制作者(3DやアニメーションなどのCG映像制作や動画編集者)になるには、専門学校や大学で基礎を学ぶか独学でスキルを磨き、制作実績(ポートフォリオ)を作成したうえで映像制作会社や企業の社内クリエイター職に応募する。

 

寺澤さんの場合

大学ではプロダクトデザインを学び、将来は車のデザイナーを夢見る。大学で学んだCGの知識を活かせるデンソーへ入社するも、配属されたのは予想外の「設計の部署」で、知識ゼロからのスタートだった。研修で必死に勉強し、CGの作成方法や専用ソフトを活用しての解析をみっちり学び、製品モデリング(CG)、図面作成、流体・強度解析などの設計サポートを16年間行う。
それでもデザイン関連業務への憧れをあきらめず、希望を伝え続けた結果、「動画制作」のチャンスを掴む。
現在は、16年かけて身につけた専門知識を活かし、お客様に製品の良さを伝える動画制作の担当をしている。

寺澤

16年間地道に積み重ねてきたからこそ、その高度な知識を活かした動画制作ができることが強みです。

動画制作のイメージ

こんな人が向いている!

① 動画編集が好き
自分の手で映像を作り、形にしていくこと自体を楽しめる人。
コツコツと作業を積み重ね、一つの作品を完成させるのが好きな人に向いている。

② 相手の「言いたいこと」を引き出せる
依頼者との会話の中から「本当に伝えたい魅力やメッセージ」を引き出せる人。
相手の想いを丁寧に聞き取り、コミュニケーションを大切にしながら進めることで、より活躍できる仕事。

③ アイデアを浮かべるのが得意
「どうすればもっと分かりやすく伝わるか」と、新しい表現や演出方法を考えるのが好きな人。
自分の頭の中にある自由な発想を、映像という形で表現したい人に向いている。

 

求められるスキル、必要な知識

① 主体性(自ら動く力)
専門スキル以上に、どの環境でも働くために不可欠な力。
仕事で分からないことに直面したとき、そこで立ち止まるのではなく、自ら調べたり、周りに相談したりして「一歩先へ進むアクション」を起こす主体性が求められます。

② 仕事に必要な専門知識・スキル
3D映像の制作技術だけでなく、製品の仕組みや、空気・熱の計算(解析)など、実務をこなすうえでベースとなる専門的な技術や知識を正しく身につける力。

 

スキルアップのためにしていること

・会社の研修制度をフル活用
知識ゼロからのスタートだったため、会社が推奨する研修をたくさん選択して受講しました。会社負担で手話通訳を派遣してもらえたおかげで、情報保障の心配をすることなく、安心してスムーズに専門知識を習得することができました。

・プライベートの時間も使った自学自習
会社での学びだけでなく、業務に関連する試験の勉強をして資格を取得したり、時にはプライベートの時間も使って知識を深めたりと、今でも自ら学び続ける姿勢を大切にしています。

教えて!センパイの経験談

この仕事を始めたきっかけ

絵を描くのが好きだった。

――現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。

寺澤

原点は、中学2年生のころです。もともと絵を描くのが好きだったのですが、学校の先生から自分の作品を高く評価してもらったことで「いつかデザインの仕事がしたいな」とぼんやり思うようになりました。

高校生のときの進路相談で、ろう学校の美術の先生から「デザインが向いているから、筑波技術大学のデザイン科に進んでみたら?」と勧めてもらったんです。筑波技術大学はきこえない人に特化した大学で情報保障もあると知り、進学を決めました。

大学での出会いが、夢を具体的に。

――大学ではどんなことを学んだのでしょうか。

寺澤

大学でプロダクトデザインを学ぶ中、車関連の仕事をしていた教授に出会いました。その教授が見せてくれた車のデザイン画が本当に魅力的で、「私も未来の車をデザインする仕事がしたい!」と強く思うようになったんです。

ただ、いざ就職活動を始めると、希望する車のデザインの仕事はなかなか見つかりませんでした。そこで「大学で学んだCGスキルを少しでも活かせる仕事を」と探した結果、ご縁があって今の会社に入社することができました。

知識ゼロからのスタート

――入社後は、すぐに希望のデザインの仕事ができたのでしょうか?

寺澤

それが、配属されたのは全く予想外の「製品設計の部署」でした。(笑)
デザインとはかけ離れた部署で、知識ゼロからのスタートでした。ですが、新人研修でCGモデリングや製品の解析(空気や熱のシミュレーション)の技術をみっちり叩き込まれ、地道に16年間、設計サポートの技術を磨き続けました。

それでも「やっぱりデザイン関連の仕事がしたい」という憧れは消えなかったので、会社にはずっと「デザイン業務のある部署へ異動したい」と希望を出し続けていました

無駄にはならない道のり

――16年間の想いが、今の動画制作に繋がったのですね。

寺澤

そうなんです。
2年前に会社の組織改編があり、動画制作の業務を自部署が担当することになったので、自ら手を挙げ、動画制作の担当になりました。
今の仕事は、単なる動画編集ではなく、私がこれまでに磨いてきた「図面や数値解析の専門知識」があるからこそ、お客様に製品の良さを証明できる動画が作れるんです。

最初は理想と違う部署からのスタートでしたが、目の前の仕事に全力で取り組み、地道に積み重ねてきたからこそ、今の自分の強みに繋がっていると感じています。

 

嬉しい瞬間

仕事のやりがいと楽しさ

――仕事で嬉しいと思う瞬間はありますか。

寺澤

手話でコミュニケーションが取れる仲間と一緒に仕事ができたとき」に、一番のやりがいと楽しさを感じていました。

数年前、車のエアコンの設計サポート業務をしていたとき、チームに手話ができるメンバーが何人かいたんです。「もっと低価格で、もっと高性能な製品にするにはどうすればいいか?」という難しい課題に対して、みんなで手話を使って熱く意見を交わしながらモデリングを進め、より良い製品を作り上げられた経験は今でも最高の思い出です。

仲間と共にモノづくりする喜びが原動力

――手話でリアルタイムにアイデアをぶつけ合える環境だったのですね。

寺澤

そうなんです。
大きなプロジェクトの一員として、きこえる・きこえないに関わらず、同じ目標に向かって手話で通じ合いながら働けた時間は本当に充実していました。大変なプロジェクトを乗り越えて、残業が終わったあとにみんなで「お疲れ様!」と飲みに行って、仕事や未来について語り合った時間は何にも代えがたい楽しさでした。
仲間と共にモノづくりをする喜びが、私の仕事の原動力になっています。

 

悩んだこと、悩んでいること

言葉の裏にある「2つの文化の違い」

――仕事をしていくうえで、悩んだことや壁にぶつかったことはありましたか。

寺澤

一番の壁は「コミュニケーション(文化の違い)」でした。
私の家族は全員がろう者で、私も幼少期からずっと手話で育ってきました。
そのため、社会に出てから、きこえる人の「言葉のニュアンス」や「聴者文化」とのズレを理解するまでに、とても時間がかかりました。

入社して1、2年目は、その違いに戸惑うことが多く、苦しかったです。

言葉の裏にある「ニュアンス」の壁

――言葉のニュアンスの違いというと、具体的にどんなことがあったのでしょうか。

寺澤

例えば、上司から「できるだけ早くやってね」と指示をされたときのことです。
私はそれを「自分の都合がつくタイミングで、できる範囲で早くやればいいんだな」と受け取って仕事を進めていました。すると後から「なぜまだできていないんだ」と厳しく注意されてしまい……。

そこで初めて、会社で使われる「できるだけ早く」には、実は「今すぐ最優先でやってほしい(至急案件)」という強いニュアンスが込められていることを学びました。

歩み寄るためのアクション

――言葉通りに受け取ると、すれ違ってしまうポイントですね。その壁をどうやって乗り越えたのですか。

寺澤

時には同僚や上司と衝突することもありましたが、それがきっかけで「自分自身の中にある『ろう文化』」と「多数派である『聴者文化』」の存在を冷静に見つめ直せるようになりました。

すれ違いが起きやすい原因を掴んでからは、社内で手話講座を開くと同時に、私たちの「ろう文化」やコミュニケーションの特徴について周囲に説明をしていきました。
上司や同僚に「『できるだけ早く』ではなく、『これは今すぐやってほしい』と具体的に伝えてもらえると助かります」とお願いしたところ、みんなが「直接的な表現」へと優しく言い換えてくれるようになったんです。

対話がもたらした、安心できる職場環境

――お互いに歩み寄ることで、関係が変わっていったのですね。

寺澤

はい。お互いの文化を理解し、対話を重ねることで、チーム全体の仕事がとてもスムーズに回るようになりました。

今では、仕事を始める前に同僚の方から「どう進めるのが一番やりやすい?」と先に確認してくれるようになり、その温かい気遣いが本当に嬉しく、毎日とても安心して仕事ができています。

 

 

きこえる人との協働の仕方

チャットツールを活用

――きこえる同僚や上司と働くうえで、どのような工夫をしていますか。

寺澤

基本的には、パソコンに常備されている音声認識ツール(Teamsなど)を活用して対話しています。こちらから伝えるときはテキスト入力です。ただ、ツールは便利ですが、完璧ではなく誤変換もあります。

そのため、わからないことがあれば、その都度「話の途中であっても遮って確認していい」というルールを上司に作ってもらいました。
相手が言ったことを「こういう理解で合っていますか?」と、自分で要約して確認することで、認識のズレを防いでいます。

テクノロジーのない時代にしていた工夫

――音声認識ツールのような便利な技術がなかった時代は、どうしていたのでしょうか。

寺澤

コロナ前は出社して働いていましたが、やはり筆談だけではどうしてもスムーズに伝えることが難しい場面がありました。

私にとっては手話が一番話しやすいので、「みんなにも手話を覚えてほしい」と会社に要望を伝え、有志を集めて社内で手話講座を開いたんです。
その結果、手話が上達した同僚が2名でき、仕事がとてもスムーズに回るようになりました。手話なら、わからないことも気軽に質問できます。
何より「通じ合える仲間がいる」という安心感が心地よく、仕事が一段と楽しくなりました。

自分が困らないための「主体的なアクション」

――ご自身の主体的なアクションによって、働きやすい環境を自ら作り出したのですね。

寺澤

そうですね。ただ、その手話ができる2人が、いつまでも同じ部署で一緒に働けるとは限りません。
「自分がこの先ずっと働くうえで、コミュニケーションに困らないようにするためにはどうすべきか」と考えたとき、音声認識アプリ「UDトーク」の存在を知りました。

他社の導入事例などを自分で調べて、会社に「ぜひうちでも導入してほしい」と要望を出したところ、実際に社内へ導入してもらえることになりました。
現在は音声認識ツールと、ズレを防ぐための丁寧な「認識合わせ」を組み合わせながら、お互いにストレスなく働ける環境を作っています

 

学生時代の印象的な出来事

内気な性格

――13歳の頃はどんな性格でしたか。

寺澤

昔は今と違って、とてもおとなしい性格でした。(笑)

当時は今のようにSNSやスマホが普及していなかったので、遠くに住む人と簡単に繋がれる時代ではありませんでした。だからこそ、当時は「直接会いに行く」ということを大切にしていました。

友達の多い社交的な同級生に連れられて、県外に住むろう者に会いに行ったりしているうちに、少しずつ視野が広がっていきました。
「こんな生き方もあるんだ」「世界はこんなに広いんだ」ということを、いろいろな人との交流を通して教えてもらいました。

16歳での衝撃と、火がついたデフリンピックへの夢

――学生時代に、特に熱中していたことや印象に残っている思い出はありますか。

寺澤

学生時代は、とにかく部活動の「陸上」に熱中していました。
大きな転機となったのは、16歳のときです。

同級生がきこえない人のオリンピックである「デフリンピック」にバスケットボールの日本代表選手として出場することになりました。
その姿にものすごく大きな刺激を受けて、「いつかは自分も、陸上でデフリンピックに出たい!」と心に火がついたんです。

打ち込んだ青春が大きな自信に。

――身近に大きな目標となるライバルがいたのですね。

寺澤

はい。近くにかっこいいロールモデルがいたからこそ、夢に向かって必死に練習に打ち込むことができました。

それから毎日泥臭く努力を積み重ねた結果、24歳のときに念願だった陸上の日本代表選手として、デフリンピックに出場することができたんです!
目標に向かって何かにがむしゃらに打ち込んだ経験は、今の私の大きな自信に繋がっています。

 

 

 

 

学生時代にしておくべきこと

自分から人に聞く

――寺澤さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

寺澤

「これをやらなきゃいけない」という特別なことはありませんが、やっぱり学生のうちから「主体性」を意識して過ごしてほしいなと思います。

学校生活の中で、わからないことや、小さく疑問に思ったことがあれば、先生や友達、身近な人に自分から積極的に質問してみてください。
その「自分から人に聞く」というアクションこそが、自己成長の第一歩になります。

社会人になっても必要な力

――自分から周りに聞くことは、大人になっても大切ですか。

寺澤

はい。社会人になったからといって、なんでも一人で完璧にやり切れることはありません。
困ったとき、仕事で行き詰まったときに、周りの人に「教えてください」と相談できる力が、実は一番必要なんです。

「わからないことは自分から周りに相談する」という習慣は、ぜひ学生のうちに身につけておいてほしいなと思います。私自身も、悩んだら周りの人に相談しながら学び、成長し続けています。

 

さいごに…

座右の銘

日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!

――最後に座右の銘を聞かせてください!

寺澤

私は「座右の銘」として特定の言葉を強く意識しているわけではないんです。
それよりも、日々「今日1日で何を行い、どのような成果を出すか」を毎日しっかりと考えて行動することを、何より大切にしています。

 

 

会社員として自分の夢をかなえるには

会社で希望する職種に就けなかったとしても、やりたいことに繋がる機会は必ずあります。大きな目標だけを見るのではなく、小さなきっかけを見つけることで、自分のやりたいことがみえてくるはずです。
例えば私の場合、過去にCADやCAE解析業務における「人材育成(教える仕事)」に携わった経験があります。その際、紙や電子の資料を使った教育では、なかなか理解が浸透しにくいという課題がありました。そこで、「動画を活用すれば、内部構造の動きや仕組みをアニメーションで表現でき、もっと理解を深めてもらえるのではないか」と考え、レンダリング動画制作に取り組むことがありました。これが、今の私の仕事の原点にもなっています。
このように、目の前の業務の中から課題や可能性を見つけ、自ら行動することで、新たな道を切り開くことができると考えています。

寺澤

会社員として自分の夢をかなえるには(手話動画)

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この記事を書いた人

ひとり旅をこよなく愛するアラサー。
「面白そうな情報ゲット!」
「視野が少し広がった!」
世界が拡がる、そんな記事を
お届けできたらと思っています。

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