キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑。
あなたの目指す働き方のヒントに。
さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。
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社会活動家(アクティビスト)
野村 恒平(のむら・こうへい)さん
‐ 山口県出身
きこえについて
生まれつき耳が聞こえない。2歳から高校までろう学校に通う。
普段は右耳のみ補聴器を装用し、日本手話、筆談でコミュニケーションをとる。

基本情報
社会活動家(フリーランス)
常設の総合LGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」
運営チームのメンバーであり、多言語・多文化推進事業DeafDayスタッフとして働く。
(主な業務)
・来館者対応、相談支援
・イベントの企画、運営
・定例会議
・手話通訳コーディネート
・事務作業

プライドハウス東京レガシーに出勤するほか、一般社団法人日本ろうLGBTQ+連盟の代表、手話講師、LGBTQ+に関する講演の活動をしている。

野村ろうLGBTQ当事者として、精力的にろうLGBTQ+の活動を行っています!
1日の流れ

プライドハウス東京レガシーで勤めるまでの経緯
2018年にろうLGBTQ+活動をスタートし、自身も当事者であり、たくさんの当事者たちの話を聞き続けてきた。
福岡から東京へ転居後、LGBTQ+活動している中でプライドハウス東京レガシーから声がかかり、運営チームメンバーの一員として働くようになる。

こんな人が向いている!
相手に寄り添える
さまざまなニーズを求めてくる人もいる中で、どれだけ相手に寄り添えるかを考えられる人が向いている。
求められるスキル、必要な知識
① 傾聴する力
相談者の悩みや要望を解決ではなく、導いていくためにも否定せずに相手の話を一度受け入れることで、信頼関係の構築につながる。
② LGBTQ+全般の知識
LGBTQ+に関わる支援のため、専門知識が必要となる。
③ LGBTQ+ネットワーク構築
相談者が必要としている支援につなげていくため、さまざまなネットワークを持つことで、より包括的な支援が可能となる。
④ セルフケア
自分自身の健康(心と体)を維持し、健康に問題が発生した際に自分で対処する能力のこと。
支援者側がより良い支援を提供し続けるために必要なスキル。
⑤ 来館者へ寄り添う姿勢
相談支援が主な業務であり、何か目的があって来館された方に対して寄り添う姿勢がないと相手は心を開かない。
スキルアップのためにしていること
・社内研修を受ける
LGBTQ+関連の知識を深め、相談支援の技術を高めることができる。
・心理関係の本を読む
心の仕組みや人との関わり方を学び、相談を受けるときに相手の気持ちに寄り添えるように心がけている。
・趣味に没頭する
自分自身をリフレッシュし、心身のバランスを整えることで、活動にも前向きに取り組めるようになる。
教えて!センパイの経験談
この仕事を始めたきっかけ
手話で相談できる場所を。
――現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。
野村当事者として2018年からろうLGBTQ+の活動をしていた際、プライドハウス東京レガシーからお声がけをいただきました。
プライドハウス東京はコンソーシアムによって運営されており、その中に「多言語・多文化推進事業」という部門があります。そこでは、様々な言語を扱うスタッフが常駐しており、手話やろう文化にも対応できるよう、ろう者のスタッフも一緒に活動しています。
現在の社会では、LGBTQ+に関する施設や相談窓口に行っても、対応するのは聴者がほとんどです。そのため、私たちろう者が第一言語である手話で安心して相談したり、情報提供を受けたりできる場所が必要だと感じ、この仕事を始めました。
常設がポイント
――心の拠り所は必要ですよね。
野村はい。特に「常設」であることが、とても大切だと感じています。
2018年に団体を立ち上げて活動していたときは、イベントを企画して、その日に人が集まることはできました。しかし、相談を受けられるのはその日だけで、継続的な支援にはつながりにくかったんです。
いつでも相談できる体制が整っている場所があることで、より安心して相談できる環境になると思います。そう感じるのは、私自身も過去に「相談したくてもできる場所がなかった」経験があるからです。
また、相談だけでなく、本を読んだりリラックスしたりできる“居場所”があることも大切だと思っています。
与えられた選択肢は3つだけ
――LGBTQ+の活動を始める前はどんなことをされていましたか。
野村高校の進路相談のとき、就職する場合は3つの企業から選ぶしかありませんでした。トヨタ、デンソー、マツダ。どれも多くのろう者が働いている企業です。そのうちの1つに就職しましたが、自分には合わないと感じ、1年半で退職しました。
その後は地元の山口県に戻り、マクドナルド、クロネコヤマト、佐川急便などでアルバイトを転々としました。20代前半は働いたり、旅へ出かけたり、「自分」とは何か模索していましたね。
決め手はイメージができるかどうか
――就職の選択が限られてしまうのは辛いですよね。
野村そうなんです。親からは「恒平なら保育士を目指して、まずは専門学校に行ってみたら?」と勧められました。しかし、ろう者の私が保育園などで働く姿を想像することができず、進学には踏み出せませんでした。
一方で、就職先にはろう学校の先輩が働いていて、職場の様子や、給料を趣味に使って楽しんでいる話を聞くうちに、「自分も社会人として生活していけるんだ」とイメージが持てるようになりました。
今振り返ると、“ロールモデル”の存在はとても大きかったと思います。
幅広い社会経験を積んできた
――20代後半はどのような働き方をされていましたか。
野村20代後半に差しかかる頃、「そろそろ自立しなくては」と思うようになりました。
そこで、福岡県にある福岡障害者職業能力開発校に通い、簿記や会計、Word・Excelなど、事務職に必要なスキルを学びました。
卒業後は、福岡県内の企業に就職し、事務職として5年間働きました。
その後、福岡県聴覚障害者協会の職員に転職し、同じ時期に福岡県でろうLGBT団体を立ち上げました。
嬉しい瞬間
重みのある「また来ますね」
――仕事で嬉しいと思う瞬間はありますか。
野村相談に来られる方は、何かを相談したくて来館されます。
けれど、お話を聞いたり、必要な情報をお伝えしたりするうちに、張りつめていた気持ちが少しずつ和らいでいきます。
帰るころには表情が明るくなり、「ありがとう」「また来ますね」と笑顔で言ってくださる。
一緒に悩んで考えてクリアしていく積み重ねが重要だなと感じます。
嬉しいというより、来館者が笑顔になることが何よりも励みになっています。
悩んだこと、悩んでいること
資格取得に立ちはだかる壁
――仕事をしていくうえでの悩みはありますか。
野村以前から、「もっと早く相談支援の技術や専門知識を深めておけばよかった」と感じることがあります。
今は、さらなるスキルアップのために産業カウンセラーとグリーフケアの資格取得を目指しているのですが、学ぶうえで必要となる情報保障(手話通訳や文字通訳など)にかかる費用が自己負担になってしまうことが悩みです。
きこえる人との協働の仕方
環境づくりも重要
――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?
野村運営チームのメンバーのほとんどは聴者です。
定例ミーティングや社内研修では、手話通訳をつけてもらうことで、自分からも意見を出しやすくなっています。
さらに、筆談ボードや音声認識アプリを使ってコミュニケーションをとることもあります。
日本語力も大切ですが、自分の能力を十分に発揮するために、手話通訳など環境を整えることも、聴者と協働していくうえでとても重要だと感じています。

学生時代の印象的な出来事
昔も今も変わらない
――13歳の頃はどんな性格でしたか?
野村一言で言えば、活発な子でした。
学生時代から生徒会長や部活のキャプテン等、リーダーを任されることが多かったですね。

チームをまとめる存在だった
――記憶に残っている出来事はありますか。
野村みんなを引っ張るリーダー的な立場になっていたことが、特に印象に残っています。
生徒会長や部活のキャプテンも任されていました。
陸上の大会では、通っていたろう学校が連覇していて、その記録が途切れないようにと優勝を目指してチームをまとめていました。
コミュニケーションを大切に
――昔からチームをまとめる機会が多かったのですね。その時に大切にしていたことはなんでしょうか。
野村私は、一人ひとりとコミュニケーションをとることを意識していました。
部活の時間だけでなく、昼食の時間や日常生活の中でも積極的に会話をして、つながりを大切にしていました。
チームメンバー、一人ひとりの背景を理解し、優勝を目指してチーム一丸となるように、どうまとめていくかを常に考えていましたね。

学生時代にしておくべきこと
とにかく挑戦!
――野村さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。
野村自分の好きなこと、またはやりたいことは自分から進んで挑戦しておくことですね。
社会に出たときに、それが必ず何かにつながってきます。
私自身も、高校時代にやっていたことが今になって活きています。
また、コミュニケーションを大切にしてほしいですね。

さいごに…
座右の銘
日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!
「ワタシはひとりではない。」
――最後に座右の銘を聞かせてください!
野村LGBTQ+の当事者の立場からいうと、「ワタシはひとりではない。」です。
――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?
野村自分の人生を振り返ると、何度も繰り返し自分に言い聞かせてきました。
孤独に感じる時があるかもしれない。でも、どんな時も必ず味方はいます。
もし読んでいるあなたが何かで孤独を感じているとしたら、あなたは一人じゃないよということに気づいてほしいです。

フリーランス、社会活動家を目指しているあなたへ
これまでLGBTQ+の活動を続けかれこれ8年。ご覧いただいている方に伝えたいことがあります。
自分がやりたいことは何なのか、探してみるとよいでしょう。例えば大学進学、就職など人生において迷う場面があります。その迷いを大切にしてほしいことです。
自分は何がやりたいのか、自分がどんな人なのか、情報を集めたり、活躍されている方などを見て 自分の理想像に少しずつ近づけていけるようにするとよいでしょう。
私の「やりたいこと」は昔と今では全く違うものになりました。昔、自分がやりたかったことを積み重ねてきた結果、今、私はろうLGBTQ+の活動につながっています。おかげさまで、いろんな人たちに出会い、今がとても楽しいです。
あなたも自分のやりたいことを探してみてください!


