ろう・難聴版 職業ガイドブック_013 会社員_総合職


キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑

あなたの目指す働き方のヒントに。

さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。

#ろう #難聴 #聴覚障害 #仕事 #職業 #就活 #新卒 #転職
 

目次

会社員_総合職

森下 利来彩(もりした・りきさ)さん

  ‐ 東京都出身

 

きこえについて

耳の聞こえにくさは2歳前に判明。生まれつきかは不明。
最初は両耳75dB程度であったが、小学4年生のとき両耳100dBに低下。
就学前は「聴こえとことばの教室」で学び、小・中は地域の学校に、高校は都立高に通う。
高校生のとき、美術の予備校に通い、美術大学に進学。
ろう学校の赴任経験があった高校の担任から手話も覚えることを勧められ、大学から手話を学ぶ。
普段は両耳補聴器を使用し、手話・口話両方を活用している。

基本情報

サントリーホールディングス株式会社 総合職

サントリーホールディングス株式会社に入社し、総合職として働いて14年目。
人事・営業企画を経て、現在はお客様志向経営推進部に所属する。
オペレーターの運営業務、お客様の声を分析してサービス向上・事業化する部署であり、
その中で、サントリーグループ全社へお客様志向を推進する啓発活動などを担当する。

現在小学2年生と5歳の2児の母でもあり、それぞれ1年~2年の育休を取得し復帰。
テレワークやフレックス、時間休を活用し、子供の通院や保育園・小学校のイベントにも参加。

“👀”目より情報
会社員の働き方には、一般職と総合職に分かれるよ!

【一般職】
資料作成や電話対応、事務処理などのサポート業務が中心。勤務地は限定され、転勤は少ないところが多い。
【総合職】
営業・企画・人事など、会社の中核を担う業務を担当。全国や海外への転勤や将来的な管理職への登用もある。

森下

“仕事を頑張る日をつくる!”
夫婦で協力し、月に数回は残業してやりきる日を設けたり、飲み会にも参加しています!

1日の流れ

  

会社員_総合職になるには

一般的なケース

大学や大学院を卒業し、新卒で入社。
就職後は営業や企画、管理など、会社の中でも中心的な仕事をして、将来はリーダーや管理職を目指す。
中途採用の場合は、すでに社会人として働いた経験や専門的なスキルがある人が対象となり、
「この人はすぐに活躍してくれそうか」「チームをまとめる力があるか」などを見て採用される。

 

森下さんの場合

「ものづくりに関わる仕事がしたい」と考え、業種をメーカーに絞る。
両親も美大出身で一般企業内にあるデザイン部に勤めていた経験から、「デザインの知識は企業の中でも活かせる」と早くから気づいており、デザイン事務所ではなく、一般企業への就職を選ぶ。
新卒障害者採用を募集している採用イベントがあることを知り、応募する。
将来の結婚・出産、さらには介護などのライフイベントも見据えて、女性でも安心して長く働ける環境が整っていることと、 新しいものに挑戦することが好きな性格から総合職枠で志望し、内定をいただく。

美大生時代の作品

こんな人が向いている!

新しい環境や変化を楽しめる人
幅広い分野において、目まぐるしい変化の中で成長し続けなければならない職種であるため。

 

求められるスキル、必要な知識

① コミュニケーション力
コミュニケーション方法(口話であるか筆談かによらず)伝えたい、伝えようとする気持ちが大切。
人はそれぞれ考え方が違うため、どうしてもコミュニケーションのズレは起こります。
だからこそ、仕事では「自分がどう思っているか」「相手がどう受け取ったか」を何度もすり合わせていくことが大切。

② リプレゼンテーション力(自分を理解し、説明する力)
特にろう者・難聴者の方にとっては、自分のことや必要な配慮をわかりやすく伝える力が必要です。
「こういう配慮があると助かる」と伝えることは、円滑に仕事を進めるうえでとても大切なスキルです。
伝えたあとは、相手がきちんと理解できたかを確認し、必要に応じてフォローすることも重要。

③ アサーティブ(うまく交渉する)
配慮してほしいことをただ要望するだけではなく、「これはできるけれど、これは難しいので配慮してほしい」といった交渉を、 相手と対立せずに伝えられる力が大切。社会は聴者が多数派であるため、日本語でしっかりやりとりできる力も大切です。

④ リーダーシップ(主体的に動く)
中堅社員になると、人を動かし、取りまとめる力も求められるようになる。
自分ひとりでできることには限りがあるからこそ、信頼関係を築き、まわりと協力しながらチーム全体をまとめていく力が必要になり、 自分から動く「主体性」も大切になります。

 

スキルアップのためにしていること

研修に積極的に参加する
毎年社内で実施されている応募型研修を受講しているほか、社外のオンラインセミナーなどにも参加。
特に同じ聞こえない社会人の方と情報交換したり、スキルアップセミナーに参加することはとても有意義です。

教えて!センパイの経験談

この仕事を始めたきっかけ

新たな分野への挑戦

――現在の企業に入社したきっかけを教えてください。

森下

美術大学に在学時、ものづくりに関わる企業で働きたいと思い描いていました。また自分に合う職種がまだ分からず、デザイン以外の新しい分野にも挑戦したい気持ちがあったことから、デザイン関係の仕事に絞らず一般企業への入社を選びました。

総合職を選んだワケ

――そのなかでも総合職を選んだ理由はなんでしょうか。

森下

自分の性格上、何にでも挑戦してみたいタイプなので、より幅広い業務に関われる総合職のほうが合っていると感じ、総合職を選びました。
そういえば、就職の面接でも「海外への転勤になっても大丈夫か」と聞かれ、「はい」と答えたことを思い出しました。

 

楽しい瞬間

「ありがとう」から感じるやりがい

――仕事で嬉しいと思う瞬間はありますか。

森下

人事や営業企画を経て、現在も社内向けの仕事が多いのですが、やはり「ありがとう」と言われたときは嬉しいですね。
自分が関わったことが結果として改善に繋がったと感じられると、大きな喜びがあります。

たとえば営業企画のときには、多忙な営業担当者のために、入力業務をシステム化して業務を効率化できたことがありました。
そのときに感謝の言葉をもらえて、自分の仕事が役に立っていると実感できたことがとても嬉しかったです。

サントリーの社名を表す「サントリーサイン」

――そういえばサントリーを表す手話の制作にも携わっていましたよね。

森下

はい!
サントリーの社名を表す「サントリーサイン」を作った時、社内外のろう・難聴者に喜んでいただけました。また、社員の皆さんが記念撮影時に進んで表している様子や、自分の会社にはろう・難聴者も活躍できる会社なんだと誇りに感じてくださっている様子をみて、本当に嬉しく思っています。
サントリーは愛社精神が強いと言われているんですよ。

悩んだこと、悩んでいること

ろう・難聴者特有の悩み

――仕事をしていくうえでの悩みはありますか。

森下

人事を担当していたとき、会議やディスカッションが多く、新人が議事録を担当するのが決まりになっていました。
私も一生懸命取り組んでいましたが、やはり限界がありました。

そんなとき、チームメンバーが「すべてを新人に任せるのではなく、交代制にしよう」と提案してくださり、先輩たちのやり方を見ることで多くを学ぶことができました。
また、上司も私に合った働き方ができるよう配慮してくださり、とてもありがたかったです。
この経験から、自分にとって「何ができて、何が難しいのか」を自分から伝えることの大切さを実感しました。

中堅社員なりの苦労

――新人時代は慣れるのに苦労しますよね。

森下

本当にそうですね。
そして、今は中堅社員として、周りを引っ張ったりチームをまとめたりする力が求められるようになって、自分ひとりの問題ではなくなってきました。
そのぶん、コミュニケーションの大切さもますます実感しています。
今も正直、もがきながら苦戦しているところです(笑)

 

きこえる人との協働の仕方

自分の「トリセツ」

――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?

森下

まず自分の異動時、他から異動されてきた方に、
「森下の聴こえのトリセツ(取扱説明書)」を必ず送付しています。
若手の頃はその都度機会があれば話す、という感じだったのですが、年次が上がるにつれ、多くの方と関わる仕事が増え、トリセツのようなもので相手もいつでも読み返せるものが必要だと思い、2人目の育休復帰から配るようになりました。

この「森下の聴こえのトリセツ」はとても効果があり、新人のころから用意すればよかったと思っています(笑)

仕事と育児の両立について

情報共有が大事!

――働きながら子育てをしていく上での工夫はありますか?

森下

3つあります。
①自分の状況をチームメンバーに共有しておくこと。
(保護者会のことや子どもの行事などの情報共有)

②突然の休みになったとき、すぐに対応が必要な業務があるかどうかも含めて情報共有をしておくこと

③パートナーとの日々のスケジュール共有。
(今日は出社なのか在宅なのか、子どもの迎えが可能かどうか等)

 

学生時代の印象的な出来事

意思の強い子だった

――13歳の頃はどんな性格でしたか

森下

必ずやり遂げる。負けず嫌い。頑固な性格でした。
聴者には負けない!」そんな子でした。

まわりと違うんだという自覚

――印象に残っている出来事はありますか。

森下

自分がまわりと違うんだと、はっきり自覚したのは小学3年生のときです。

クラス替えがあったとき、新しいクラスの名簿を見て、2年生まで同じクラスだった 「自分が聞こえないことを知っている子」と「知らない子」にそれぞれマークをつけていました。
特に言わなければ、自分は聞こえる子と同じように過ごせていると思っていたのです。友達との関係によりどこまで言うべきか揺らいでいた時期でもあります。
しかし、その様子を見ていた母から「もう、同級生みんなあなたが聞こえないことは知ってるわよ!」と言われて…。
その言葉に、「え?そうだったの?」という気持ちと、「な~んだそうだったのか」と軽くなる気持ち、良くも悪くもショックを受けたことを覚えています。

「言わなければ気づかれずに、みんなと同じように過ごせる」と思っていたけれど、やっぱり自分は違うんだということをそのとき実感しました。

 

学生時代にしておくべきこと

日本語力を磨くべし!

――森下さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

森下

日本語力を磨く

書記日本語力はとても重要になりますね。
受験や就職では、小論文を書く機会があると思いますが、限られた文字数の中で自分の考えをきちんと伝えるには、語彙力が必要になります。
難しい本でなくても、子ども向けの新聞や読みやすい本から始めて、日本語の力を少しずつ養っていくのが良いと思います。

 

チアリーディング部に所属していた高校時代の写真

さいごに…

座右の銘

日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!

やってみなはれ

笑う門には福来る

――最後に座右の銘を聞かせてください!

森下

「やってみなはれ」と「笑う門には福来る」です。

――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?

森下

「やってみなはれ」はサントリーの創業者である鳥井信治郎の口癖であり、サントリーの社風を代表する言葉です。
やっぱりこの言葉に惹かれて選んだということもあるし、これまでも、とにかくやってみるということの連続でしたので、この言葉が好きですね。

「笑う門には福来る」は何かを成し遂げるとき、時には運が必要なこともある。そして運を引き寄せるには自分の行動も大切で、よく笑う人、笑顔が多い人は運がいいように思います。なので、この言葉を大切にしています。

 

会社員_総合職を目指しているあなたへ

子どものころの夢とは違いますが、いろんな縁があって、この会社に来ています。
良いことも苦しいことも全部含めて、自分のこれまでの経験がめぐり合わせてくれたのだと思っています。
ろう者という自分をしっかり丁寧に説明することでさまざまな仕事を経験することができ、毎日が楽しいです。
みなさんの中には夢ってなに?やりたいことなに?と思っている人もいるかも。
でも今やりたいことが分からなくても大丈夫!
好きなこと・魅かれることになんでもチャレンジして、自分を育んでください!

森下

会社員_総合職を目指しているあなたへ(手話動画)

参考リンク

「サントリーサイン」を発案した森下さんの記事も合わせてお読みください!

「総合職」「就活」に関連する本




楽天市場およびAmazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

ひとり旅をこよなく愛するアラサー。
「面白そうな情報ゲット!」
「視野が少し広がった!」
世界が拡がる、そんな記事を
お届けできたらと思っています。

目次