キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑。
あなたの目指す働き方のヒントに。
さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。
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ダイビングインストラクター
米盛 雄貴(よねもり・ゆうき)さん
‐ 東京都出身
きこえについて
生まれつき耳が聞こえない。(先天性重度感音難聴)
ろう学校幼稚部に通い、小学校は地域の学校に通う。中学・高校では再びろう学校に進み、大学へ進学。
現在は補聴器を装用し、人に合わせてコミュニケーションをとる。

基本情報
ダイビングインストラクター
個人事業主として「MIL MARE(ミルマーレ)」としてダイビングインストラクター事業を開業。
主に、ダイビングのインストラクター業とガイド業を行う。
- インストラクター
- ダイビングを始めたい方を対象にダイビングのライセンス取得に必要な講習の実施、送迎などを含め全て行う。
- ガイド
- ライセンスを取得された方を対象に千葉、神奈川、伊豆エリアを中心にツアー企画を行う。

本職は会社員ですが、副業でダイビングインストラクターをしています!
1日の流れ


「ログ付け」とはダイビングの経験本数や実績を残すログブックに
その日の記録(時間数、酸素の量など)を残すことを言います。
ダイビングインストラクターになるには
一般的なケース
【最もメジャーな「PADI(パディ)」という国際的な指導団体の例】
初心者向けのライセンス。まずはここからスタート。
より深いダイビング、ナビゲーションなどを学ぶステップアップコース。
緊急時の対応やトラブル予防を学ぶ、インストラクターを目指す人の登竜門。
心肺蘇生法(CPR)や応急処置の知識を学ぶ。インストラクターになるには必須。
ここからプロレベル。ガイドや講習アシスタントができるようになる。
これに合格して初めてインストラクターコースに進める。
教えるための技術、指導法、安全管理などを徹底的に学ぶ。
IE(インストラクター試験)に合格すれば晴れてインストラクターになれる。
米盛さんの場合
平日は会社員として働きながら、ダイビング経験を積む。
また、週末はダイビングショップでダイブマスター(インストラクターの前段階)として、インストラクターのアシスタント業務を行う。主にお客様のサポートや、機材の販売などを担当。
昨年(2024年)の8月〜10月は毎週末ダイブマスターとして現場経験を積み、11月〜12月にはインストラクターになるための講習を受講。試験にも合格し、その後も必要な技術を学びながら、今年(2025年)の1月〜2月はインストラクターとしてのスキルアップと、開業に向けた準備を進める。

インストラクターになる道は様々で、数少ない専門学校を出て、インストラクターになる方もいらっしゃいます!

こんな人が向いている!
① 海やダイビングが好きな人
海の魅力やダイビングというスポーツの楽しさを伝える仕事でもある。
まずは自分自身が海の魅力を知っている必要がある。
② 人と関わるのが好きな人
人を相手にする仕事でもあるため、初対面の人でも相手を楽しませることに喜びを見出せること。
求められるスキル、必要な知識
① ダイビングに関する技術や知識
お客様からの質問は、ほとんどが現場で受けます。すぐに答えられるよう、日頃から知識を身につけておくことが大切。
たとえば、ダイビング機材や海の生き物についての知識などが必要。
② コミュニケーション力
初心者の方は、自分が何に不安を感じているのか、はっきりわからないことがある。
その気持ちをくみ取り、不安を安心に変えるために、相手に寄り添ったコミュニケーションが大切。
③ 体力・精神力
自分の体調管理はもちろん、海ではリーダーとして動く場面もある。
緊急時に冷静に対応できる体力と精神力が求められる。
④ 指導力
お客様の理解度や技術レベルはさまざまなので、一人ひとりに合った指導ができる力が必要。
⑤ 安全管理能力と救急救命の知識・技術
事故を防ぐために、リスクを事前に察知し、安全に行動する力が求められる。
万が一のときには、救急救命の知識と、それを実行できる技術が必要。
スキルアップのためにしていること
❏ 最新の情報をチェックする
ダイビングの教育方法や機材は日々進化しているため、常に最新の知識や現場の情報を取り入れるように心がけている。
❏ 体力の維持
安全にダイビングを行うために、日頃から体力を維持している。

定期的な運動をして、健康管理にも気をつけています!

教えて!センパイの経験談
この仕事を始めたきっかけ
海への憧れ
――ダイビングインストラクターを始めたきっかけを教えてください。

東京生まれ、東京育ちで、自然とは縁のない生活をしていた分、自然や海に対する憧れが強かったように思います。
学生時代の頃から海に関わる仕事がしたいと考えており、自然環境のことを学べる大学に進学し、その後は大手総合電機メーカーに就職しました。
環境を守るために必要なものづくりを考える仕事なのですが、海とはかけ離れたオフィスで勤務しています。
このまま働き続けていけるのだろうかと漠然とした不安に駆られる中、ダイビングに出逢いました。
2つの異なる世界
――自然の中で働ける仕事を求めていたのでしょうか。

そうかもしれません。
海の美しさや自然を身体で味わうことができるということ。
陸上では地に足がつくものだが、海中では足が浮いていて
陸上は音声優位の世界だが、海中では視覚優位の世界
という異なる世界が広がっていることも面白さに引き込まれるようになり、 海の魅力や感動を人に伝えられるダイビングインストラクターを目指すようになりました。
海で陸の垣間をなくす
――ろう者のインストラクターは珍しいですよね。

ダイビングインストラクターは、手話ができない聴者がほとんどです。
だからこそ、手話で学べる環境がもっとあってもいいのではと感じました。
海の中では音声が使えないため、聴者もろう者も対等な立場になります。
そうした環境の中で、手話を学びたい聴者がいれば、一緒にダイビングを楽しめる。そんな、これまでにない新しい形があってもいいのではと思いました。
ダイビングインストラクターという仕事を通じて、社会に小さな変化を起こせたら。それも、私がこの道を選んだきっかけのひとつです。

楽しい瞬間
お客様の喜びの表情
――仕事で嬉しいと思う瞬間はありますか。

ちょっとしたミスが命取りになるため、体力的にも精神的にも大変さを感じるシーンが多い中で、ダイビング後のお客様の明るくなった表情を見た時や、「今日はすごい楽しかった!」「また潜りたい!」という言葉がとても嬉しいですね。
悩んだこと、悩んでいること
口話の限界
――仕事をしていくうえでの悩みはありますか。

聴者のお客様に対しては口話で対応しているのですが、ダイビング中は補聴器を外すことになります。
機材を装着してからダイビングするまでの間やダイビングポイントに向かう船上で、お客様の様子をコミュニケーションを通して把握することが難しく、どう工夫をしていけばよいか、まだまだ課題を感じています。
きこえる人との協働の仕方
手話が少しできる店長
――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?

基本は口話中心になります。
ダイビングショップで働いていた時は店長が少し手話ができたので働きやすかったです。
自分なりの方法で
――聴者のお客様にはどう対応していますか?

機材の装着は動かしながら説明しています。
海に潜ってしまえば相手はきこえる人であっても視覚的なコミュニケーション方法になります。最初の自己紹介やダイビングの説明に関しては、口話で対応し、 聞き取りにくいことの理解をしてもらえるように事前に説明を行なっています。
学生時代の印象的な出来事
マイペースな性格の陰には
――13歳の頃はどんな性格でしたか?

周りが見えない、人の気持ちが分からない自己中心的な性格でした…。
自分の思い通りに動かしたい気持ちが強く、 自分がこうだと思ったら周りの意見を聞かないというタイプだったと思います。
今思えば、弱い自分を隠すことに必死だったのかもしれません。
多様な価値観に触れて
――なるほど、どうしてそう思うのでしょうか。

弱音を吐ける場がなかったということもあるかもしれません。
思春期で自分の苛立ちをうまく表現することができずに苦しんでいたけれど、 大学に進学してからは、年齢に関係なくいろんな人に出会い、いろんな価値観に触れるようになっていきました。
すると、中高時代の自分のコンプレックスは次第になくなっていきました。

学生時代にしておくべきこと
夢中になれることがヒントに
――米盛さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

夢中になれる経験をすること
自分が夢中になれることや心から楽しいと思えるものは 意外と自分では気づかないもの。没頭できるものを中高生のうちに見つけると今後の進路を考えていく時に役に立つと思います。

さいごに…
座右の銘
日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!
ぶつかって、ぶつかって、ぶつかって、いけ
――最後に座右の銘を聞かせてください!

「ぶつかって、ぶつかって、ぶつかって、いけ」です。
――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?

この言葉は私の先輩が私のために言ってくれました。
自分の知らない世界に挑戦していくことは常にぶつかっていく気持ちが大事になります。
ぶつかってすぐ終わるのではなく、泥臭く自分の信念を信じ、 勇気を持って何回もぶつかっていく、ということが何かを成し遂げることには大事です。
ぶつかった結果、分かることもあります。発展途上な私にとって大事にしたい座右の銘としました!

ダイビングインストラクターを目指しているあなたへ
海や自然の素晴らしさを人に伝え、人に素晴らしい経験をもたらす仕事だと思います。
ダイビングインストラクターは、ただ技術を教えるだけでなく、海への敬意や楽しさ、安全管理の大切さを伝える存在です。時には大変なこともあります。長時間の海での活動、体力や精神力が試される場面もあるでしょう。
でもその先にある、「ありがとう」「楽しかった」「また潜りたい」という言葉がきっとあなたの原動力になります。一人ひとりに寄り添い、その人にあったサポートができることが、信頼されるインストラクターへの第一歩です。
自分がどんなインストラクターになりたいか、考えてみてください。

ダイビングインストラクターを目指しているあなたへ(手話動画)
参考リンク
