ろう・難聴版 職業ガイドブック_010 ハンマー投げ選手


キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑

あなたの目指す働き方のヒントに。

さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。

#ろう #難聴 #聴覚障害 #仕事 #職業 #就活 #新卒 #転職
 

目次

デフアスリート_ハンマー投げ選手

森本 真敏(もりもと・まさとし)さん

  ‐ 滋賀県出身

 

きこえについて

生まれつき耳が聞こえない。両親と姉もろう者のため、家庭内のコミュニケーションは日本手話。
ろう学校は乳幼児クラスから高校まで通い、大学は筑波大学へ進学。
普段は日本手話、筆談でコミュニケーションをとる。

提供:一般社団法人日本デフ陸上競技協会

基本情報

ハンマー投げ選手(アスリート雇用)

日神不動産株式会社にアスリート社員として雇用される。

競技専念型で、全ての就業時間を練習にあてることができるアスリート雇用の契約。
練習や大会に出場、新聞などのメディアに出演、講演活動にて会社名を出すことで広報活動に繋げている。

デフリンピックの出場は計3回。
(2009年台湾、2013年ブルガリア、2022年ブラジル)

”👀”目より情報

デフアスリートの働き方には、大きく分けて以下の2通りの働き方があるよ!
(※就業条件によって異なる場合がある)

▹ 競技専念型のアスリート社員  
▹ 普段は会社員として働き、
  就労時間外で練習を行う

1日の流れ

  

月曜日
  練習日
火曜日
  練習日
水曜日
  アクティブレスト
  ※体を軽く動かすことで疲れをとる方法のこと
木曜日
  練習日
金曜日
  練習日
土曜日
  試合
日曜日
  オフ

森本

大会が控えていたり、鍛錬期は休まずに練習することも
状況によって過ごし方は変わります!

ハンマー投げ選手になるには

一般的なケース

基礎づくり

筋力・体幹・柔軟性の強化

技術習得

フォーム・回転動作の習得

大会出場

インターハイや地域大会で実績を積む

国内・国際大会で活躍

日本選手権・世界大会を目指す

進学・所属

強豪大学や実業団へ進む

プロ・トップアスリートへ

実業団・スポンサー契約など

 

森本さんの場合

高校生のときにハンマー投げを始め、県の記録を更新し、インターハイに出場
大学ではインターカレッジに出場し、6位に入賞
大学卒業後は地元の滋賀ろう学校で講師として働きながら、ハンマー投げの練習を続け、2009年の台北デフリンピックに初出場
その後、転職や引退を経験しながら、より良い練習環境を求め、つなひろワールド(障害者アスリートの人材紹介サービス)を活用し、 アスリート雇用で日神不動産株式会社へ転職。

森本

実績はすごく重要!
高校や大学の大会で好成績を残すなど実績があるとアスリート雇用に繋がりやすいです。

提供:一般社団法人日本デフ陸上競技協会

こんな人が向いている!

① 努力を続けて結果を出せる
競技の成績を残すことが大前提。 そのための鍛錬や努力ができる人。

② 競技と収入の両立ができる
競技を続けるためには収入も必要であり、 スポンサーとなっていただける会社に還元できる活動を実践できる人。

 

求められるスキル、必要な知識

① 環境を整える力
結果を出すためには、自分で練習環境を整えることが大切です。
コーチ探しや生活スタイルの工夫、情報保障の面など、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作る力が求められます。

② マインドコントロール
世界大会では、国によって気候や文化が大きく異なります。
そうした環境の違いにも動じず、平常心を保てることがアスリートには欠かせません。
柔軟に対応できる強いメンタルが必要です。

③ 学び、変化し続ける力
同じ練習の繰り返しだけでは成長しません。
新しい技術やトレーニングを取り入れることで、より強くなれます。
特に、「観察する力」「吸収する力」「実行する力」の3つが大切です。

④ 広報活動スキル力
SNSを活用して、自分の活動を多くの人に知ってもらうことも重要です。
見てもらえる工夫をしながら、自分の魅力を伝えていく力が求められます。

森本

最近ピラティスを始めたのですが、呼吸法やマインドセットにすごくいい影響を受けています。

 

スキルアップのためにしていること

❏ 遊び心を持って学ぶ

スキルアップの究極の形は“遊び心”だと思います。
楽しみながら学ぶことで、新しい発見が生まれます。

趣味のキャンプでは火の起こし方やテントの設営など、体験を通じて自然と知識が身につきます。
「楽しむこと」が成長につながると感じています。

森本

私はサウナが趣味で、いろんなサウナに入り、作り手のこだわりを知ることで視野が広がっています。
サウナの構造を考えたり、オーナーとの会話から学ぶことが多く、コミュニケーション力も自然と高まってきました。

教えて!センパイの経験談

この仕事を始めたきっかけ

プロ野球を目指していたが…

――ハンマー投げを始めたきっかけを教えてください。

森本

中学生まで野球を続け、プロ野球選手を目指していました。
しかし、野球の強豪校である高校の受験に落ち、ろう学校に進学することになりました。

プロ野球への道が閉ざされたように感じ、落ち込んでいた時、
現在のコーチでもある松本先生からハンマー投げを勧められました。

紆余曲折のアスリート人生

――現在のアスリート雇用までの経緯も教えてください。

森本

実は、これまでの経歴はコロコロ変わっていて、話すと長くなってしまいます(笑)

大学卒業後、滋賀ろう学校の講師として2年間勤めました。
大学では体育の教員免許を取得していましたが、 ここでは実習教諭として児童・生徒の学びを支援したり、生徒指導を行ったりしていました。
その頃、2009年の台北オリンピックがあり、金メダルを獲ることができました。

なりたいのは体育の先生

――体育の先生をしていたわけではないのですね。

森本

そうなんです。
本当は体育を教えたいという気持ちが心にずっとあったことや 仕事と並行して練習を続けるのは無理があると感じていたので、講師の契約満了と同時に辞めて、アスリート雇用をしていただける会社を探すことにしました。

しかし、なかなか見つからず…。
当時はデフリンピックの認知が低く、アスリート雇用で活躍するろう者がほぼいませんでした。

練習環境を求めて

――2010年ごろはアスリート雇用されているろう者がほぼいなかったのですね。

森本

講師を辞め、フリーターをしながらハンマー投げの練習をしていた時期もあります。
そして、縁あって地域に根ざしたプロスポーツチームの滋賀レイクスターズに所属させていただけることになり、 午前は仕事をして、午後は練習に専念するという働き方をさせていただけるようになりました。

 ▼滋賀レイクスターズ時代のブログ

大きな挫折と引退

――ハンマー投げに主軸を置いた生活を昔からされていたのですね。

森本

はい。その生活を1年半続け、2013年のブルガリアデフリンピックでは金メダルが手に届く位置でありながら、結果は銀メダルに終わってしまいました。

それが大きな挫折となり、怪我が増えたこともあって身体に限界を感じ、引退を考えるようになりました。
今思えば、相談できる相手がいなかったように思います。

ようやく体育の先生に

――引退を決めたきっかけがあるのでしょうか。

森本

ちょうどその頃、埼玉の大宮ろう学校で体育の先生を募集していました。
体育を教える夢が叶うこともあり、「ここに呼ばれている」と感じました。 また、ハンマー投げ選手として一区切りをつけるようにという天の思し召しかもしれないと思い、 引退を決意すると同時に、大宮ろう学校の教員としての道を歩み始めました。

初めの1年は講師として勤務し、その後7年間は正規教員として務め、 合計8年間の教員生活を送りました。

「復帰」の芽生え

――そこから復帰を考えたきっかけはなんでしょうか。

森本

部活で陸上の顧問を担当していた、ある日の陸上部の合宿の日のこと。
2017年のトルコのサムスンデフリンピックが行われていて、YouTubeのLive配信をリアルタイムで視聴していました。

男子400mリレーの種目で日本初の金メダルを獲得した瞬間、私は感動のあまり、涙を流していました。
それと同時に自分の心にどこかモヤモヤを抱えていることに気づきました。

捻挫と思い続けていた骨折

――モヤモヤの正体は…?

森本

そのモヤモヤを抱えながら日々を過ごしていたある日のこと。
骨折をしてしまい通院すると、 医者から「2回目の骨折ですよね?」と尋ねられ、1回目のはずと不審に思いながら話を聞くと レントゲンで見ると2回目の骨折であることが判明しました。

思い返してみると、選手だった頃に怪我だと思っていたものが実は骨折だったことを知り、骨折を完治したあと試しにハンマー投げをしてみると痛みを感じなかったので、復帰の可能性を感じました。

生徒からの一言

――復帰が頭をよぎったのですね。ほかにもあるのでしょうか。

森本

また、ろう学校内でハンマー投げの選手を2人を教えていて、そのうち1人がインターハイ北関東予選大会に出場する好成績を残しました。
その生徒から「デフリンピックに出ないの?」という一言に心が揺れました。

まだデフリンピックに出場できる可能性があるのに、自らその可能性を閉ざしてしまうのは勿体無いような気持ちになっていきました。

決め手は妻からの一言

――サムスンデフリンピックを観てモヤモヤが生まれ、骨折から予想もしていなかった事実が判別し、 教え子からの一言に影響を受けて復帰を決めたのでしょうか。

森本

その通りです。
ちょうどコロナの時期で自分と向き合う時間が増え、自問自答を重ね、 最後に妻に相談したところ「一度きりの人生、やりたいことをやってほしい」の一言が最後のひと押しになりました。
選手として復帰することを決意し、 つなひろワールドにサポートいただき、アスリート雇用で日神不動産株式会社へ転職し、現在5年目となります。

楽しい瞬間

ハンマー投げが導く出会い

――仕事で楽しいと思う瞬間はありますか。

森本

ハンマー投げだけのことを切り取って見るとひとりの世界にこもっているように見えますが、実はいろんな人との関わりがあります。

コーチとの関わり、応援してくれる人、講演会に来てくださる方、 トレーナーやケアを担当する人との関わり、そして新たな出会いがあるので繋がりが広がっていく、そんな感覚がすごく楽しいです。

 

悩んだこと、悩んでいること

使えるものは使う!

――仕事をしていくうえでの悩みはありますか。

森本

あまり悩まないかもしれません。
ろう者が悩むことの大半はコミュニケーションの面だと思うのですが、 大会の時に手話通訳が付かなければ、音声認識アプリやスマホで筆談したり プラスヴォイスの遠隔手話サービス「えんかく+を活用したりすることでコミュニケーションをとっています。

昔は壁を感じていましたが、今は便利なツールが増えたので困る場面が減りました。

交渉力は武器となる

――対応方法を知っているから悩むことがないのですね。

森本

これまでの仕事の経験から自分が仕事をしやすい環境づくりが必要だと思うようになり、 手話通訳など情報保障の必要性をしっかり伝え、交渉することができるようになってから特に情報格差を感じることは無くなったように思います。

 

きこえる人との協働の仕方

認識のズレを察知する

――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?

森本

普段の会社との連絡はメールを使用し、ビデオ通話の際にはチャットを活用しています。
出社する際は、会社側で手話通訳者を手配してもらっています。

基本的に困ることはありませんが、文字だけではニュアンスの違いが伝わりにくいため、認識のズレが生じないように、手話でも確認しながら仕事を進めることを心がけています。

 

 

学生時代の印象的な出来事

マイペースで深く考えない性格

――13歳の頃はどんな性格でしたか

森本

中学はマイペースで、深く考えない性格でした。
高校生からは気づきを大切にし、考える習慣を身につけるように心がけてきました。

恩師の何気ない一言

――印象に残っている出来事はありますか。

森本

中学3年生の1月頃の進路を決める時でしょうか。
プロ野球を目指して野球の強豪校を志望していたのですが、受験に落ちたことで夢や目標を失い、ひどく落ち込んでいました。

そんな時に現在のコーチである松本先生から「ハンマー投げをやってみないか」という何気ないひと言が 私の競技人生を大きく変えました。
その一言がなければデフリンピックに出場することもありませんでしたし、アスリートにもなっていませんから。

 

学生時代にしておくべきこと

たくさんのスポーツを体験しておこう!

――森本さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

森本

体を動かして、基礎を作ること

小学生のうちは、いろんなスポーツをやってみてほしいですね。
ただ、大事なのはやってみて飽きたからといってすぐに辞めてしまわないこと。
チャレンジして、ある程度定めた目標に達したら、別のスポーツにチャレンジしてみるということが大事です。すぐにスポーツを変えてしまうと、すぐに諦める癖がついてしまう。
小学生のうちにいろんなスポーツをすることで感覚やセンスが磨かれていくと思います。

壁にぶつかる経験をたくさんしておく

挫折を味わうことをたくさん経験し、もがくことも成長のためには必要なことです。
親は基本的には見守って、必要な時にサポートをする姿勢が求められるように思います。聴者とのコミュニケーションがうまくいかなかったこともありますが、その経験があるから、どうしていけばいいか自分なりの方法を編み出して 今ではコミュニケーション力がついてきました。

 

提供:一般社団法人日本デフ陸上競技協会

さいごに…

座右の銘

日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!

日進月歩

――最後に座右の銘を聞かせてください!

森本

「日進月歩」です。

――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?

森本

初めて覚えた四字熟語が “日進月歩” なんです。
日に日に進歩し、月ごとに大きく発展していくことを意味する言葉で、
努力を続けることで確実に成長できるという意味でも使われます。
今の自分と重なり、好きな言葉でもあります。

 

デフアスリートを目指しているあなたへ

アスリートであることは、自分にしかできない特別な能力の一つだと思います。そして、スポーツを通じて、ろう者のことや自分自身が経験してきたことを伝えることで、社会を変える力があると信じています。

森本

デフアスリートを目指しているあなたへ(手話動画)

参考リンク

「デフアスリート」「ハンマー投げ」に関連する本




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この記事を書いた人

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「視野が少し広がった!」
世界が拡がる、そんな記事を
お届けできたらと思っています。

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