ろう・難聴版 職業ガイドブック018 兼業農家・養蜂家


キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑

あなたの目指す働き方のヒントに。

さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。

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目次

兼業農家・養蜂家

加藤 基行(かとう・もとゆき)さん

  ‐ 埼玉県出身

 

きこえについて

生まれつき耳が聞こえない。幼稚部から専攻科までろう学校に通う。
普段は補聴器を装用し、日本語と手話でコミュニケーションをとる。

基本情報

兼業農家・養蜂家

本業であるIT系企業の事務職として働きながら、兼業で無農薬米・無農薬野菜・天然純粋蜂蜜の生産を行う。
農業や養蜂を通して、自然保護や地域環境の再生にも取り組んでいる。

(主な業務)
・無農薬米作り
 耕耘、田植え、水管理、除草作業、稲刈り、ハザ掛け、稲こき、脱穀
・無農薬野菜作り
 耕作、種まき、苗作り、栽培、収穫
・天然純粋蜂蜜作り
 ミツバチの育成、蜜源の移動、採蜜、ダニ対策、スズメバチ対策、群数管理、給餌、越冬準備

加藤

自然と向き合いながら、本業と両立して地域や環境を支える仕事です!

1日の流れ

  

農家・養蜂家になるには

一般的なケース

農業高校や農学系の大学で学んだり、就農研修や先輩農家のもとで経験を積むケースが多い。
養蜂についても、実地で学ぶことが基本で、地域の養蜂家から技術を教わることが一般的。
近年は、会社員として働きながら兼業で始める人も増えている。

 

加藤さんの場合

祖父母が農家だったこともあり、子どもの頃から農作業を手伝う中で、農業のやりがいや継承することの大切さを感じるようになる。長野県へ移住したことをきっかけに、兼業農家として田畑の仕事に本格的に取り組み始めた。
養蜂については以前から関心があったものの、始め方が分からず模索していた。そんな中、地域のボランティア活動を通してプロの養蜂家と出会い、その縁から1年間の見習い期間を経て、2年目に独立。現在は試行錯誤を重ねながら養蜂に取り組んでいる。

こんな人が向いている!

① 精神力・体力がある
自然が相手の仕事であるため、天候不良や災害など思い通りにいかないこともある中で、
せっかく育てたお米や野菜がうまく育たず、これまでの努力が水の泡になることもある。
それでも心が折れず、また次に向かって立ち上がれる人。

② 前向きに挑戦できる
同じことを繰り返すだけでなく、自分で考えながら新しい取り組みに挑戦できる人。
うまく育たなかった経験も失敗で終わらせず、次に活かそうと前向きに捉えられる姿勢が大切。

③ コミュニケーション力がある
相手を問わず積極的に話を聞き、多様な意見を受け入れられる人。
うまく育てられなかったときに、地元の農家や養蜂家にアドバイスを求めることも重要で、人とのつながりを自分の成長につなげられる人。

 

求められるスキル、必要な知識

① 行動力
やると決めたことを最後までやり切る覚悟。
思い立ったら動き、途中で投げ出さずに、継続する力。

② 体力・忍耐力
自然を相手にする仕事ならではの、強い体力。
終わりの見えない草刈りや土づくり、肥料運びなど重労働を支える忍耐力。

③ 経験値
一度でうまくいくとは限らない農業の現実。
失敗を重ねながら学び、経験として積み上げていく力。

④ コミュニケーション力
作物がうまく育たない原因を一人で抱え込まない姿勢。
地元の人やJA(農業協同組合)に気軽に相談できる、日頃からの関係づくり。

⑤ 発想力
失敗の中から原因を見つけ出すための視点。
「なぜダメだったのか」に気づき、次へとつなげる柔軟な発想。

 

スキルアップのためにしていること

・自然を観察し、失敗から学ぶ
天候や季節の変化、畑ごとの土の質など、自然の流れを日々よく観察しています。
お米作りでは田んぼの一部分の藁のすき込みが多くて窒素不足になり、生育不良になった失敗もありました。
また、野菜作りでは肥料を与えるタイミングがズレた上に気候の変化もあり、うまく育たなかったこともあります。
どちらの失敗も経験として次に培われます。

・試行錯誤を重ね、新しい方法に挑戦する
一つのやり方に固執せず、さまざまな無農薬栽培の方法を試しています。
例えば、虫がつきやすいキャベツと、虫がつきにくいレタスを交互に植えることで、虫害を抑える工夫を行っています。
作物の特性や自然の仕組みを理解しながら、自ら考え、実践を重ねていくことで、少しずつ栽培技術を高めています。

教えて!センパイの経験談

この仕事を始めたきっかけ

子どもの頃から身近にあった農業

――現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。

加藤

もともと自然や土づくりが好きで、子どもの頃から「いつか農業に関わる仕事がしたい」と思っていました。
一般的には定年後に農業を始める人も多いですが、定年まで待つのではなく、若いうちから経験を積み、基礎を作りたいと考えたことが大きな理由です。

また、祖父母が長野県に住んでおり、子どもの頃からよく遊びに行っていました。農家だった祖父の田んぼや畑を手伝ううちに、自然や農業が身近な存在となり、次第に「農家になりたい」という思いが強くなっていきました。
その思いを形にするため、2019年に長野県へ移住しました。

テレワークをうまく活用

――移住にあたり、転職はされたのでしょうか?

加藤

いいえ、仕事は変えずに移住しました。
移住当初は、月に5回までテレワークが可能だったため、金曜日は長野県で在宅勤務を行い、土日に農業に取り組む生活を送っていました。

その後、コロナ禍をきっかけにリモートワークが一般的になり、農業にもより本格的に取り組めるようになりました。
現在は、週2回は新幹線で東京へ出社し、残りの3日は在宅勤務をしながら、兼業農家・養蜂家として活動しています。

仕事との両立のために

――仕事と農業はどのように両立していますか?

加藤

日々の細かな確認を欠かさないことでしょうか。
平日は本業があるため、出勤前の早朝や退勤後の夕方に田んぼや畑の様子を確認しています。天候の変化にも対応できるよう、常に天気予報をチェックしながら計画を立てています。
長期の旅行や出張が難しいですが、なんとかやりくりしています(笑)

大変さとやりがいは比例する

――田んぼや畑の規模はどのくらいですか?

加藤

田んぼは2か所で、一方は約150坪(250〜300kg収穫)、もう一方は一反ほど(約600kg収穫)あります。
畑は約200坪で、ほかにブルーベリー畑や養蜂用のスペースも確保しています。広い分、草刈りなどの作業は大変ですが、その分やりがいも大きいですよ。

嬉しい瞬間

我が子同然の感覚

――仕事で嬉しいと思う瞬間はありますか。

加藤

米や野菜は生命あるものなので、子どもを育てているような感覚があります。種をまき、手をかけて育てた作物が無事に成長し、収穫できた瞬間は大きな喜びです。さらに、無農薬米や野菜を食べた方から「美味しい」と言ってもらえたときには、大変だった分だけ報われる思いがあります。

蜂蜜も同じで、ミツバチたちが一生懸命集めてくれた蜜を分けてもらっている感覚です。たくさんの蜂蜜が採れ、「甘くて美味しい」「これが本物の蜂蜜なんだね」と言ってもらえると、本当に嬉しく、苦労が報われます。ミツバチも我が子のような存在で、とても愛着があります。

悩んだこと、悩んでいること

高齢化が著しい農業分野

――仕事をしていくうえでの悩みはありますか。

加藤

農業の担い手が減っていることです。
高齢化が進み、田んぼや畑が使われなくなって荒れていく様子を見ると、胸が痛みます。大切に守られてきた土地が活かされなくなってしまう現状に、強い課題を感じています。

 

きこえる人との協働の仕方

自分との接し方を相手に伝える

――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?

加藤

自分に障害があるからと意識しすぎず、同じ一人の人として、積極的にコミュニケーションを取ることを大切にしています。
農業は一人でもできますが、規模が大きくなるほど周囲の助けが必要になります。
そのため、日頃から感謝の気持ちを忘れずに接し、協力し合える関係づくりを心がけています。また、自分の障害についてきちんと伝え、「こうしてもらえると助かる」と理解を求めることも、協働には欠かせないと感じています。

 

学生時代の印象的な出来事

短気な性格

――13歳の頃はどんな性格でしたか?

加藤

昔は、気に入らないことを言われると、すぐに怒りを感じてしまう短気な性格でした。
今はそのようなことはなく、むしろ相手の話を聞くようになりましたね。
「どうしてそう思ったの?」と、率直に意見を求めることが増えました。

不登校だった過去

――記憶に残っている出来事はありますか。

加藤

小学4年生から中学2年生まで、不登校の時期がありました。
今だから言えますが、先生からのパワハラやモラハラがきっかけで、学校に行きたくなくなってしまったのです。
当時は家で過ごしたり、親戚と遊んだりする日々でした。
また、長野にある祖父母の家で過ごし、祖父の農業を手伝うようにもなりました。そうした時間を通して、学校に対する気持ちも少しずつ変わっていきました。

 

人との関わりを大切に

――学校から少し距離を置いた時間が、後の変化につながったのですね。

加藤

そうですね。中学校に進学し、学校行事としてスポーツレクリエーションが行われた際、運動が好きだったこともあり参加しました。そのとき、同級生から「学校においでよ」と声をかけてもらい、それをきっかけに中学2年生から再び学校に通うようになりました。

勉強はもちろん大切ですが、社会に出ると人との関わり方も大切なスキルになります。
友達や人間関係を大切にし、感謝の気持ちを忘れず、楽しい学生生活を送ってほしいと思います。

 

学生時代にしておくべきこと

環境問題に興味を持つこと

――加藤さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

加藤

小さい頃から、農業体験を通して米や野菜のありがたみを知り、どのように作られているのかを学ぶことが大切だと思います。
あわせて、自然環境の問題について知っておくことも重要です。
もし、すでに将来は農業に携わりたいと考えているのであれば、農業学校へ進学するという選択肢もあると思います。

 

さいごに…

座右の銘

日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!

「為せば成る」
「何苦楚魂」

――最後に座右の銘を聞かせてください!

加藤

「為せば成る」「何苦楚魂」の2つでしょうか。

 

――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?

加藤

子どもの頃から、「聞こえない人にはできない」と言われることが多くありました。
でも、やってみなければ分からない。そう思い、「聞こえなくてもできる」ということを証明したくて、さまざまなことに挑戦してきました。
そのときに大切にしているのが「為せば成る」という言葉です。
失敗してもいいから、まずはやってみる。その姿勢をいつも忘れないようにしています。

もう一つが「何苦楚魂」です。
社会に出れば誰でも壁にぶつかります。だからこそ、苦しいときでも折れずに、あきらめずに進んでいきたい。そんな思いをこの言葉に込めています。
どちらも学生時代に取り組んでいた野球を通して出会った言葉で、今も自分を支えてくれる大切な座右の銘です。

 

兼業農家・養蜂家を目指しているあなたへ

この仕事は本当に滅んでしまうかもしれないぐらいで日本全体の人口の僅か1%です。これも高齢化や後継者問題で田畑放棄が増えて農業に携わる人が減っているからです。このままだと国産の米や野菜が作れなくなります。だからこそ、今、私達のような若い世代が立ち上がっていかなければなりません。決して楽ではありませんが、自然に触れ合いながら生命を育む仕事は楽しいし、やりがいもあります。
次世代に繋げる為にも農業に興味がある!やりたいと思う人は積極的に取り組んで貰いたいです。

加藤

兼業農家・養蜂家を目指しているあなたへ(手話動画)

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この記事を書いた人

ひとり旅をこよなく愛するアラサー。
「面白そうな情報ゲット!」
「視野が少し広がった!」
世界が拡がる、そんな記事を
お届けできたらと思っています。

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