キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑。
あなたの目指す働き方のヒントに。
さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。
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会社員_総務
佐藤 隆次さん
‐ 長野県出身
きこえについて
3歳のときに高熱により失聴。
地域の保育園、小・中・高はろう学校に通う。その後、筑波大学附属聾学校の美術専攻へ進学。
成人までは補聴器を装用していたが、現在は運転時など必要な場面を除き、ほとんど使用せずに生活している。
普段のコミュニケーションは、手話や口話、スマホの音声認識や筆談を活用して行っている。

基本情報
フューチャー株式会社の総務
チーフ(主任級)として、総務や庶務業務を中心に社員のサポートを行う。
(主な業務)
・名刺作成、発注
・セキュリティーカードの発行
・業務用スマートフォンやWifiの発注・管理
・社員からの問い合わせ対応
・社内イベントの企画、運営
・映像編集、製作

フューチャーでは総務を「コーポレートファミリーサービス」といいます。
業務の内容は幅広く、覚えることも多いですがチャレンジできることが常にあるので楽しいですよ!
1日の流れ


会社員(総務)になるには
一般的なケース
新卒または中途採用で企業の総合職や事務職として入社し、総務部門へ配属される。
佐藤さんの場合
新卒で電機メーカーに入社し、3年間勤務。機器の組み立てやDTP(印刷物のデジタル作成)を担当。
その後、総合印刷会社へ転職し、DTP業務を4年間担当。
次に自動車販売会社へ転職し、事故車や修理車を販売店から工場へ輸送する業務を担当。
しかし、いずれの仕事も自分には合わないと感じ、転職活動を行う。
ハローワークの紹介で障害者向けの合同面接会に参加し、フューチャー株式会社に応募・採用される。
会社にとって初のろう者採用で、契約社員としてのスタートだったが業務への貢献が評価され、正社員へ登用。現在、勤続20年を迎えている。


求められるスキル、必要な知識
❏ PC基礎スキル
総務の事務作業は、ほとんどがPCを使って行います。
最低でもWordやExcelなど、オフィス系ソフトのスキルは身に付けておくべきでしょう。
必須ではありませんが、 MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)資格を取得しておくと客観的にPCスキルを証明できます。
❏ ビジネスメールを書く力
1日にたくさんのメールを送受信するため、日本語やメールのマナーや書き方の基礎スキルが必要です。



私にとって第一言語が日本手話で第二言語である日本語は不得意ではありますが、同じチームメンバーの力を借りて日々勉強を積み重ねています!
こんな人が向いている!
① PCの操作が好きな人
事務仕事はWord、Excel、PowerPointなどをよく使います。PC操作が楽しいとPCスキルも自然と身に付けられます。
② 5つの”配り”ができる人
目配り…周囲の状況を観察し、問題や変化に素早く気づくこと。
気配り…相手の立場を考え、先回りして行動する思いやりの心。
心配り…相手の気持ちに寄り添い、安心を与える行動。
手配り…自分の手で資料や物品を適切に準備・配布し、業務をスムーズに進めること。
筆配り…丁寧な直筆にすることで、好印象に繋げる。
社内外の多くの方と接点を持つため、短時間で信頼関係を形成できると仕事がしやすくなります。
③ 目標に向かって努力できる人
忙しさを言い訳にせずに自分の仕事に励んでいる人もいれば、 怠けてしまいがちな人がいます。
仕事と私生活をバランスよくとり、 目標に向かってコツコツ努力を積み重ねられることが大切です。
スキルアップのためにしていること
❏ 趣味を仕事にも活かす
動画編集を依頼されることがあるため、趣味でもあるカメラや動画編集の参考書を購読。


教えて!センパイの経験談
この仕事を始めたきっかけ
転職で気づいた自分の適職
――現在の企業に入社したきっかけを教えてください。



新卒後、3度の転職を経験しています。
製造業やDTP業界での仕事が自分には合わないと感じていた中で、
フューチャー株式会社に応募し、採用されました。
楽しい瞬間
経験が活きる楽しさ
――仕事で楽しいと思う瞬間はありますか。



総務の仕事は自分にとても合っており、業務に取り組むこと自体が楽しいです。指示を待つだけでなく、自ら提案し実行できる点にやりがいを感じています。
また、前職で培ったDTPのスキルが活かせる場面も多く、これまでの経験が無駄ではなかったと実感しています。
悩んだこと、悩んでいること
日本語の習得
――仕事をしていくうえでの悩みはありましたか。



一番の悩みは、文章力ですね。
私は第一言語が日本手話であるため、第二言語の日本語はあまり得意ではありません。様々な背景から、日本語を不得意とするろう者は多いと思いますが、私もその一人です。
入社当初から先輩や上司に確認や訂正をしていただきながら学び、少しずつ文章力が向上してきました。
苦手分野を把握し、伝える
――先輩や上司の理解も必要ですよね。



はい。先輩や上司のフォローを受けるためには、自ら積極的に行動することも大切です。
仕事に誠実に取り組み、協力し合う姿勢を示すことで、助け合いの関係が生まれ、チームワークの向上にもつながります。
自分の苦手なことを理解し、適切に伝えることができれば、より良いサポートを受けやすくなると思います。
きこえる人との協働の仕方
ICT技術の活用
――きこえる人と働くときはどういった工夫をされていますか?



入社当時(2000年代)は、筆談やメールで業務連絡をしていました。
しかし、2016年から社内の連絡ツールとしてチャットが導入されました。
チャットを活用した業務連絡が増えたことで、よりスムーズに仕事ができるようになりましたね。
また、電話リレーサービスの活用もしています。
社内の情報保障整備
――会議はどのように対応されていますか?



聴覚障害のある社員が増えたことを受けて、株式会社ミライロと連携し、社内の情報保障の整備が進みました。
オンライン・対面問わず、会議には手話通訳がつくようになり、情報保障が大きく向上しました。
資料を読むだけの時間から音声で発された情報が理解できるようになったことは、とても大きな一歩です。


週1で開催する手話教室
――素敵ですね。他にも取り組みはされていますか?



通訳者に頼るだけでなく、チームメンバーとのコミュニケーションを円滑にするために、昨年から仕事で使える簡単な手話を教える手話教室を週に1回開催しています。
毎回、「メール」や「お疲れ様です」といった業務に必要な基本的な単語を教え、少しずつ覚えてもらっています。
会社の理解もあり、非常に働きやすい環境です。


学生時代の印象的な出来事
負けず嫌いだった少年時代
――13歳の頃の性格や印象に残っているできごとはありますか?



負けず嫌いな性格で、体育の授業でチーム分けをして対戦し、 自分のチームが負けると態度に出てしまう子どもでした。
同級生から怖がられていたようです。(笑)
でも、中学生になると成長したのか優しい性格になりました。
厳しい口話教育
――記憶に残っていることはありますか。



小学校の時、厳しい先生のもとでキュードスピーチや手話を使わないようにするため、両手をおさえて口話の練習をしたことが記憶に残っています。また、口を隠して自分が呼ばれたら挙手をするという、聞き取りの練習もありました。
手話は先輩から教わっていましたね。
今となっては懐かしい思い出です。
学生時代にしておくべきこと
社会経験とスポーツ経験
――佐藤さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。



社会経験とスポーツ経験は積んでおくと役に立つときが来る
・社会経験
職場体験、見学をすることで社会に出た時のイメージが掴みやすくなると思います。今は学校で職場体験の機会があると思いますので、自分の興味のある場所で体験してどんな仕事が自分に向いてるかなと考えてみてください。
・スポーツ
思っている以上にたくさんのスポーツがあります。
校内で行われるスポーツに限らずいろんなスポーツに挑戦してみるだけでも世界が変わると思います。
ちょうど今年(2025年)はデフリンピックが東京で行われます。21競技あるので、興味があるものを見学するのもいいかもしれないですね。


さいごに…
座右の銘
日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!
愛語施(あいごせ)
情けは人の為ならず
――最後に座右の銘を聞かせてください!



2つあり、「愛語施(あいごせ)」と「情けは人の為ならず」です。
――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?



「愛語施」とは、優しい言葉、思いやりのある態度で言葉を 交わすことです。
私が大切にしている、相手に対しての5配り(目配り・気配り・心配り・手配り・筆配り)の思いやりを持って常に行動するように意識しています。
「情けは人の為ならず」とは、人に親切にすればその相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくる。という意味のことわざです。
二つに共通して言えることですが、相手への気遣いや感謝が目の前の人との双方向だけでなく、社会全体を循環していくものだと感じています。


会社員(総務)を目指しているあなたへ
現在、社会人として30年、今の会社では20年働いています。好きな仕事、やりたい仕事を選び、楽しく働いていると20年・30年と働き続けることができます。
確かに社会には壁や聴者とのコミュニケーションの壁など、色々問題があると思いますが働きやすい職場環境はつくることができます。
各所に「聴覚障害者にも働きやすい職場環境ガイドブック」が置かれていると思うので、安心してこれからの人生を楽しんでほしいなと思います。
昔はスマートフォンや電話リレーサービス、文字通訳はありませんでした。不便なことも多く、苦労しました。
今の時代、あなたは恵まれています。きっと大丈夫。
不安や失敗を恐れずにチャレンジを何度も繰り返していくことが大切です。
あなたならやればできる!その自信を持ちましょう!皆さんを応援しています!

