ろう・難聴版 職業ガイドブック_005 携帯電話ショップ店員


キコニワから未来を生きるろう・難聴に送る、
ろう者・難聴者版の職業図鑑

あなたの目指す働き方のヒントに。

さまざまな職種のろう、難聴者にインタビューを行い
職業紹介の記事を連載します。

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目次

携帯電話ショップ店員

田村 剛さん

  ‐ 兵庫県出身

きこえについて

生まれつき耳が聞こえない。 ろう学校は幼稚部まで通い、小中高は地域の学校。
大学から手話を習得し、現在は状況に応じて日本語対応手話、日本手話、口話を使い分けてコミュニケーションを図る。

基本情報

ソフトバンク名古屋手話クルー

主にろう者や難聴者のお客さまに対して手話などを交えて、ソフトバンクで取り扱っている携帯電話や商品などの販売、操作説明を行う。また、購入・契約後のアフターケア、相談などの対応をする。

カウンター業務だけでなく、各所に赴いて手話セミナーも実施することもある。
主に聴覚障害者にとって便利なスマホ・アプリの活用方法や、ビデオチャットツール(LINE、ZOOM等)の使い方など ITリテラシーに関するセミナーを講師として派遣される。

ニーズがあると思われる団体・自治体に手話セミナーの宣伝を行うこともある。

 

1日の流れ

田村

プロ野球シーズン中は、近くにナゴヤドームがあるので友人とよく野球観戦をしています!

  

携帯電話ショップ店員になるには

[一般的なケース]

資格や学歴は問われないが、携帯電話のデータ転送や店舗の売上入力などでパソコンを使用するので、最低限のパソコンや携帯電話の知識が必要とされる。

入社時は、契約社員やアルバイトでの採用がほとんどで、店舗や契約内容によるが、能力次第で正社員になることも可能。 また、資格や研修があり、それらを取得するとキャリアアップにつながることもある。

 

求められるスキル、必要な知識

① ITやモバイル通信機器の知識
商品の紹介をする際に必要であり、関連性の高いITに関する質問にも対応できることが重要。

② 相手に通じる手話
幅広い年齢層のお客さまに対応するために、高齢の方から若者が使う手話まで、柔軟に対応できる手話の知識が必要。

③ 言葉遣いやビジネスマナー
良い第一印象を与えるために、言葉遣いや敬語の知識が必要。

田村

接客業である以上、特に③言葉遣いやビジネスマナーは基本中の基本です!

こんな人が向いている!

❏ コミュニケーション能力が高い人
 ・誰とでも公平に接することができる
 ・相手の立場を考えて対応できる

❏ ビジネスマナーが身についている人
 ・丁寧な礼儀や言葉遣いができる
 ・自分から積極的に挨拶ができる
 

スキルアップのためにしていること

❏ 様々な人との交流
様々な人とコミュニケーションを取ることで、柔軟なコミュニケーション方法を学ぶことができる。
この経験が今の接客業に活かされており、スキルアップに繋がっている。人によって話し方や考え方は十人十色なので、それぞれに合わせて対応できるようになると、仕事も一層楽しくなる

❏ 読書
カタログや説明書の日本語を手話に置き換えて説明する翻訳は、一見簡単そうでとても難しい。
幅広いジャンルの本を読むことで語彙力が増し、翻訳スキルも向上する。同時に知識も深められるため、とても有意義。

教えて!センパイの経験談

この仕事を始めたきっかけ

ぎりぎりで決まった就職先

――現職に至った経緯を教えてください。

田村

就活生になる頃はリーマンショックによる就職氷河期と呼ばれるほどの就職難の時代で、70社に応募しましたが、すべて落ちてしまいました。
大学を首席で卒業していたので大丈夫だろうと高をくくっていたのですが、社会はそう甘くありませんでした。

就職先が決まらないまま時間だけが過ぎ去り、焦る一方でしたが、卒業式まであと1ヶ月に迫った2月に、ようやく内定をいただくことができました。

 

人の繋がりの大切さを強く実感

――どのように内定をいただいたのでしょうか。

田村

全国ろう学生懇談会で知り合った先輩が私の就職難を心配し、その先輩の紹介で、ある企業から面接の機会をいただき、面接を経て無事に内定をいただくことができました。

そんな経緯で採用され、その企業から出向という形で、現在はソフトバンク名古屋手話クルーとして働いています。

この経験から、人との繋がりの大切さとありがたさを身にしみて感じました。

 

まさかこの仕事に就くなんて

――携帯電話ショップ店員はなろうと思ってなったのでしょうか。

田村

正直、この仕事に就くとは思っていませんでした(笑)

ろう者・難聴者と関わる仕事がしたいと思いつつも、一般企業への就職となりました。

ところが、いざ働いてみると、携帯電話が聴覚障害者の暮らしに密接に関わっていることに気づいたんです。ICT技術の進歩により、電話リレーサービスやビデオ通話が可能になり、コミュニケーション手段の幅がぐんと広がりました。このICT技術をろう者・難聴者に紹介することを、仕事としてできることが最近はとても楽しくなってきました。

暮らしに彩りを

――スマートフォンの普及で一気に便利になりましたね。

田村

そうですね。その中でもLINEのスタンプは、ろう者にとって非常に重要な役割を果たしています。特に時代的な背景から日本語が苦手な高齢のろう者にとって、イラストで感情を伝えられるスタンプは、気持ちを表現する有効な手段となっています。

使い方を教えると、
「こんなことができるのか」「そういう使い方があるのか!」と目を輝かせ、どんどん使いこなしていくようになるんです。
そして、「教えてくれてありがとう」と感謝されたとき、本当にやりがいを感じます

 

悩んだこと、悩んでいること

悲しき誤解を生まないために

――仕事をしていくうえで悩んだことはありますか?

田村

以前、こんなことがありました。

カウンターに座ってパソコン作業に集中していた時、聴者のお客さまが声で話しかけてこられたのですが、私にはその声が聞こえませんでした。
すると、無視されたと勘違いしたお客さまからお叱りの言葉をいただきました。
聴覚障害は見た目では判断が難しいので仕方がないのかもしれませんが、 それ以来、聴者のお客さまに対して苦手意識を持つようになってしまった時期もありました。

――その後はどのように対応しましたか?

田村

上司にこの悩みを相談したことをきっかけに、様々な改善が行われました。店頭には手話カウンターの設置を知らせる掲示を出し、聴覚障害のあるスタッフは耳が聞こえないことを示すバッジを着用するようになりました。
さらに、社内では聴覚障害への理解を深める講習会も開催されるようになりました。

こうした取り組みの結果、現在では以前と比べ、ずっと働きやすい環境になっています。

 

きこえる人との協働の仕方

働きやすい環境づくりのために

――きこえる人と働くために、どういった工夫をされていますか?

田村

働きやすい環境づくりには、特に同僚の理解が重要です。聴覚障害への理解はもちろん、田村の”取扱説明書”のようなものを作成し、社員に向けて講演も行いました。

異動で人員の入れ替わりがあっても、以前からいる社員が新入社員に説明してくれることもあります。私自身も説明しますが、聴者同士の方が感覚が近く、 スムーズな場合もあるようです。皆さんの協力的な姿勢には本当に感謝しています。

さらに、職場では接客用の手話講座を定期的に開催しているため、聴者のスタッフも徐々に手話を習得しています。

聞きやすい雰囲気づくり

――協働のために、心掛けていることはありますか?

田村

「聞いてもいいかどうか、迷うくらいなら聞いてな~」や「手話が分からない時は遠慮なく聞いてね」と柔らかく伝えることで、聴者から聞かれやすい雰囲気づくりを心掛けています。

 

学生時代の印象的な出来事

コミュニケーションの壁

――13歳の頃の性格や印象に残っているできごとはありますか?

田村

中学生までは自分が聞こえないことを意識することはありませんでした

年子の弟と一緒に、同じマンションの子どもたちとよく遊んでおり、みんなにとって私が耳が聞こえないことは当たり前のことでした。
しかし、中学に進学し、野球部に入ってからは状況が一変しました。コミュニケーションの壁を感じるようになり、自分が聞こえないという現実を突きつけられる出来事が次々と起こりました。

 

自分はまわりとは違うんだ…

――その出来事を一つ教えていただけますか。

田村

野球部で外野手としてプレーをしていたある日のことです。大きく打ち上げられたボールをキャッチしようと追いかけた時、チームメイトの掛け声が聞こえず、そのままぶつかってしまいました。
それを見た監督から「聞こえないなら、その分周りをよく見るように」とアドバイスを受けました。
その時、「聴者は耳で情報を得られるのに、自分は目を駆使してカバーしなければいけないのか」と、まわりとの違いを痛感しました。

辛い経験からの決意

――まわりと違うと気づいたときの揺らぎは辛いですよね。

田村

そして、高校は野球の強豪校に入学しました。同じ中学校から進学する人はいませんでした。

聴覚障害について理解を求めましたが、現実は甘くはなく、いつしかいじめを受けるようになりました。聞こえないことで笑い者にされたり、暴力を振るわれることもあり、退学を考えたことは数えきれません。

これらの辛い経験があったからこそ、聞こえない人の手助けができる仕事に就きたいと考えるようになりました。

 

学生時代にしておくべきこと

いろんな人と交流するべし!

――田村さんが思う、学生時代にしておくべきことは何でしょうか。

田村

同級生だけというようなひとつのコミュニティだけに属するのではなく、縦の繋がりなど、幅広いコミュニティに参加して、いろいろな人と交流をしてみることが大切です!

人間関係で失敗したってかまわない。それも勉強のひとつ。 その経験の積み重ねが社会に出たとき、本当に役に立ちますよ!

 

さいごに…

座右の銘

日ごろから心に留めている言葉を聞くことで
その人となりや、その人の歩んできた道が
垣間見えると思い、聞いてみました!

外柔内剛

――最後に座右の銘を聞かせてください!

田村

「外柔内剛(がいじゅうないごう)」です。

――その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?

田村

外見は柔らかくどんな人にも柔軟に対応しながらも、中身は自分磨きをして、自分をしっかり持っている。そんな意味があります。

また、自分の名前でもある”剛”という字が入っているので、座右の銘にもしています。

人には優しく、自分に厳しく!そんなイメージです。

 

携帯電話ショップ店員になりたいあなたへ

この仕事の良いところはお客さまから

「ありがとう」「ここに来てよかった」
「これからも頼りにしているね」

と 感謝の言葉を直接かけていただけることです。 それが嬉しくてより一層頑張ろうという気持ちになります。

また、接客の仕事を通してコミュニケーション能力やマナーなどを学ぶことが多く、 自身の人生にもチャンスが広がります。

私は、
夢を目指して頑張るあなたを応援しています!!

田村

携帯電話ショップ店員になりたいあなたへ(手話動画)

参考リンク

「接客業」に関連する本




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この記事を書いた人

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そんな、読んだらちょこっとウキウキするような記事を
お届けできたらと思っています。

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